告白 3
「アイツ?」
「あぁ、、、研究チームにおった1人でな、ワシの片腕だった男じゃ」
楓とニコライは口を挟まず次の言葉を待った。
「細胞の配合が完成したと思われた時、実験の一環として癌細胞を持った猿へとそれを注入してみた。
すると驚いた事に僅か2時間足らずで癌細胞が消えおった、、、正直、興奮したよ。目指しておったゴールが目の前に迫っておるのを感じたからのぅ、、、
しかしその1時間後、再び細胞の変化をチェックした時、その興奮は恐怖へと形を変えた、、、」
その時の恐怖を思い出したのか、室田の顔に無数の汗が浮き、歯がカチカチと不規則な音を鳴らし始めた。
「ダイじょうブか?」
思わずニコライが声を掛ける。
それに軽く手を挙げて応えた室田は、テーブルに置かれたミニボトルに口をつけた。
直ぐに吐き出された呼気は濃いアルコール臭が含まれていた。
一呼吸置き、僅かながらの落ち着きを取り戻すと、室田がようやく話を続ける。
「あれは融合などでは無かった。侵蝕だったのじゃよ、、、
悪き部分を補う為の万能細胞、、、しかしワシが気付いた時、猿の体内には元々の細胞は全く残っておらなんだ。既に全てがあの細胞へと変化しておったのじゃ。
つまり姿形は猿のままで、全く別の生物へと変わり果てておったという訳じゃ。それも驚く程の短時間でな、、、」
ここまで話してまたもグビリと酒を流し込む。
「しかしワシは失敗とは思わなんだ。悪き部分を治癒する性質は確認出来たのじゃからな。
だから更なる改良を施せば実用化は可能、、、そう考えた。とは言え今のままでは駄目なのも事実。可哀想じゃが、その猿は殺処分せざるを得なんだ。
だってそうじゃろ?もはや未知の生物になってしまったのじゃから。当然ながら公表も出来ん。そうして下した決断じゃった。
その日のうちに薬物を投与したよ、せめて苦しまぬ様に、、、とな。
ところが奴は死ななんだ。投与した薬物を全て排出しおった!
もう手段は選んでおれんと、次には劇薬も試したが結果は同じじゃった、、、」
「それって、不死身って事?」
楓の問いに深い溜め息を返し
「そういう事じゃろうな、、、ワシの認知しておる限りはそう予測出来る。
しかし外見、性格などは何も変化が見られなんだ。ここで科学者としての悪い癖が出た、、、そいつに興味が湧いてしもうた。
そこで今度は試しに他の猿と同じゲージに入れてみたのじゃ。猿と猿の姿をした別の生物がどんなコミュニケーションをとるのか、それを見たかった。
するとあろう事か、奴はその猿を喰った!
それも普通に喰ったのでは無い、、、強く抱き締めると生きたまま体内に取り込んだのじゃ!イメージとしてはクラゲやアメーバの捕食に近かろうか、、、
そしてワシは新たな恐怖を覚える事となる」
そう言うとまたミニボトルを手にしたが、空になっていたらしく、諦めの鼻息を鳴らして話を続けた。
「喰われた猿はとても賢い子でな、、、人間の言葉を理解しとるのでは?と錯覚する事すら多々あった。対して奴の母体となった猿は人懐っこく可愛くはあったが、知能は低かった、、、ところがじゃ喰ってから奴は変わった。目に見えて賢くなったのじゃ。
どうやらこの生物は取り込んだ相手の知能や能力、更には記憶までも我が物と出来るらしい、、、そう仮説を立てた。
やはりこれは危険な物じゃと思ったワシは、研究を諦め、この生物の処分とデータの消去を決意した。
チームの皆にも箝口令を敷き、最も信用しておった部下、新田光一に猿の処分を託した。しかし新田は猿と共に姿を消し、その後2度と姿を見せる事は無かった」
「なるほどね。つまりその新田って男が鍵って訳ね」
「ナラば・まずハ・そいツヲ・サガす・コトから・ハジめるカ」
再び深い溜め息を吐いた室田が力無く言う。
「生きておるとは思えんが、、、の」
沈んだ空気の中、思い出した様に楓が声をあげた。
「そう言えばDは動画サイトにチャンネルを作るって言ってたわね。もしかしたらもう作ってあるかも、、、取り敢えず探してみない?」
「ソウ・だな」
ニコライも同意するが、室田だけが首を横に振った。
「その前に1つやっておきたい事がある、、」
そう言うと室田は徐にノートパソコンを開いた。




