雑魚キャラでも一度は勝ってみたい‼︎
はやと は こうげき した !▼
スライム に 10 の ダメージ !▼
スライム の こうげき !▼
はやと に 5 の ダメージ !▼
はやと は こうげき した!▼
きゅうしょ に あたった !▼
スライム に 25 の ダメージ !▼
スライム を たおした !▼
はやと は 5 の けいけんち を えた!▼
はやと は レベルアップ した !▼
「────あーあ、またあいつやられてきたぞ」
「そろそろ帰ってくるぞ。大怪我した状態で」
「…あいつさー、未だに勝てると思ってるのかな。俺たちみたいな【雑魚キャラ】が、主人公に勝てるだなんてよ」
ここは…いわゆる雑魚キャラ達が集まる場、雑魚キャラ召集場である。
ここにいる雑魚キャラは皆、主人公を倒されるためだけに作られた、雑魚である。
「ぴ、ぴぎゃぁああぁぁ〜。またやられたぁぁこんちくしょおぉぉ〜」
「ほーら、帰ってきた」
「だから無理だって言ったのに、攻撃なんかするから…逃げちまえばいいのに」
「そ、そんなの嫌だい!僕は、…あっ、俺は!とにかく強くなって主人公を倒すんだい!」
僕…あっ、俺の名前はスライミング!
今日も召集場に呼ばれて言われたところへ行き、主人公に倒されてしまった、通称【雑魚キャラ】である。
まぁ、俺はこの中でも一番強い(と思っている)んだけどな!今日も主人公に5ダメージ当ててきたぜ!
ただ…そんな強い(と思っている)俺でも、勝てないやつがいる。主人公だ。
主人公──────俺らをガンガン倒しまくる嫌なやつらだ。俺たちはチュートリアルとやら最初のミッションとやらで召集をくらい、そしてやられるのだ。
これを一日五回程度。
少ない時は召集もされないが、強いモンスターがガチャで出たりするときは、リセマラするやつらが多くて、数十回召集をくらった。
そして戦闘→瀕死→回復→戦闘…
これを繰り返して一日が終わるのだ。
俺の父や母は、スライムといえども、強い方のスライムだった。なので、主人公を倒したりしたこともあったんだとか…。
俺はこれを聞いたとき、俺たち雑魚キャラは主人公に勝てる!と思ってしまった。
だから、今もこうやって主人公に勝とうとしてるのだが…
────────────勝てない。
なにをどうしても勝てない!
…まぁ、雑魚キャラが勝てないようになっているのだが…俺はどうしても勝ちたい!
主人公を負かしたい!
そうして雑魚キャラなんて呼ばれないようになるんだ!
「…熱く語るのはいいけどよ、スライミング。策はなんかあるのか?」
「そうだよ。そんなあたって砕けろみたいな策じゃ勝てないよ?」
「ふっふっふ…。もちろん、策はあるさ。今度は絶対に上手くいく…!」
あっ、これダメなやつだと、二匹は思ったが、面白そうなので見届けることにした。
王様がいる城から、草原へ。
主人公asulaは旅立とうとしていた。
「それじゃあ、よろしく頼んだぞ、asula」
「わかりました、王様」
草原を歩いていく。
そこに近づく影一つ…。
「…おい、スライミング、本当に上手くいくんだろうな」
「大丈夫!だってあいつ初心者主人公だろうし!」
スライミングは、他のスライムと計画を立てていた。
もちろん、スライムのみでだ。
今回は五匹で来ている。
これで負けることは流石にないだろう。
…スライミングが考えた作戦はこうだ。
①まず、主人公asulaとかいうやつを囲む。
②一斉に攻撃。
③勝利!
「さぁ〜て、みんな行くぞ!」
(心配だなぁ)
(ま、何とかなるんじゃね?)
(てか、行くじゃなくて、逝くだろ…)
それぞれが胸の中に想いを秘めながら、主人公asulaのもとへと向かった。
…asulaは困っていた。
「どうしよう…チュートリアルとかめんどくさくて、話全然聞いてなかった…。何すればいいのかな」
いや、大体は覚えている。確か、スライムのもっている『何ちゃらのなんか』をとり戻せばいいはずだ。
「てか、何ちゃらのなんかってなんだよ!」
一人ツッコミをして、再度悩む。
「…あー、とりあえず、スライムを倒せばいい…か」
そう呟いたときだった。
「ぴぎいぃぃぃぃいい‼︎」
「う、うわぁぁぁああっっ⁉︎」
突然、自分をスライムが囲んできて、威嚇(?)しだしたのだ。スライムが喋ることと、声の大きさに思わずビックリしてしまう。
「ぴぎーっ‼︎」
次にまた威嚇。そして…
「…あっ」
僕の目の前は真っ白になった。
「おっしゃあ!技打つタイミングも完璧ぃ!」
そう、スライミング達はフラッシュを使い、次にファイアを放ったのだ。
「やっぱ俺たち強いな!」
「やればできるんだって!」
「初めての…勝利…だな」
「やっほーい!」
初めて作戦どおり上手くいった。
だから、それで勝てたと思っていたのだ。
「─────あーっ、危なかったね。大丈夫?」
「⁉︎」
僕はやられたと思っていた。
いつの間にか、スライム達に囲まれていた場所から離れたところにいた。
この目の前にいる少女が助けてくれたらしい。
「この声は⁉︎」
「まさか、俺らの邪魔をする…」
どこからか声が聞こえる。
「あの…君は…?」
僕は、彼女に問いかけた。
「…私は、ユナ。君が王に頼まれた依頼を手伝いに来た戦士だよ」
「やっぱりあいつだぁぁあ!」
俺は絶叫した。
あいつこそ、まさにチュートリアルに出てくる案内役。
俺らを容赦なく倒しに来るやつなのである。
「ど、どうすんだスライミング‼︎」
「こうなりゃあ、あたって砕けろだぜ!」
「俺らスライムだから砕けるどころか蒸発しちまうよ!」
「知るかぁ!行くぞ!」
「絶対逝くほうだろ‼︎」
「…いやー、あんなにスライムがまとめて出てくるのは珍しいんだけどね」
ユナが少し困ったような様子で言った。
「何かバグとか…あったんですか?あっ…」
それを聞いて、後悔した。だって彼女はゲーム内に存在する、心を持たないコンピューターなのだから。そう思っていたのだが…
「いや、うーんとね…多分スライムの気まぐれ。後で怒っとくから安心しておいて」
苦笑いしながら話す彼女を見て、僕は彼女が人間ではないかと疑ってしまった。
コンピューターなら、指示された台詞しか言えないんじゃあ…まさか、これもバグなのか?
そう頭がパニック状態になったときだった。
「じゃあ、君も一緒に戦ってみよう!どの武器を使ってみたい?」
そう台詞が出てきて、少し落ち着いた。
「えっと…その弓で」
「オッケー。んじゃ、二人であのスライム達を倒しちゃおうか!まずはここにあるボタンを押して…」
僕は言われた通りにボタンを押していく。
「よし、完璧!じゃ、さっさと終わらせよ!」
ドカーンとか、ズガーンとか、いろんな音が聞こえた。それも後々、意識が朦朧として聞こえなくなってた。
初心者主人公の攻撃を避けることはできても、ベテランチュートリアルの女…ユナの攻撃を避けることは不可能だった。
そう…また俺らは負けたのだ。
ユナのせいだ。
あいつさえ出てこなければ…
「絶対勝てたのに‼︎」
「結果的に、初心者主人公の『初めての勝利』になっちゃったね」
「…確かに、今回は惜しかったよな」
「もっと作戦を練れば何とかなるかもな」
「だよな!じゃ、次のために作戦練ろうぜ!」
「そうだ…な…⁉︎」
急にみんなの態度が変わる。
「どうしたんだよ、みんながみんな、何かに怯えたような顔してよー…」
俺は後ろを振り向こうとした。
「ねぇ…あんたたち、あの子のこと倒そうとしてたでしょ」
だが、振り向くよりも先に、重い、重い声が落ちてきたのだ。
「──────っ⁉︎」
背中が凍りつくような鋭い視線が突き刺さる。
「私さ…言わなかったっけ?チュートリアル開始されたら、案内役が来るまで襲わず待っとけって」
「ぴ、ぴぎぃ…」
(やべぇ、めっちゃ怒ってる)
「まぁ、それだけなら許せたかもしれないけどさぁ…あんたら、一体じゃなく、五体で、しかも一斉に攻撃してたでしょ?ねぇ」
「め、滅相もございません…」
(ヤベェよオイ)
「…私が言いたいこと、分かる?」
「────すいませんでしたぁああ‼︎」
俺は謝ると同時に、多分スライム至上最高の速度で走り(滑り)だした。
「あ、おい待て!」
咄嗟に仲間の方へと逃げる。
「な、なんでこっちにくるんだよ!」
「お、おら達も逃げんぞ!」
「あんたらも同罪でしょうが!そこで止まっとけっての!」
「やっぱスライミングに関わるとロクなことないな!」
「は、はやく逃げよう」
仲間達も逃げる逃げる。
「くっそ〜、コンニャロー!」
俺は、逃げながらも、思っていたことを叫んだ。
「やっぱり、雑魚キャラでも一度は勝ってみたい‼︎」