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恋文は不幸の手紙  作者: 瀧野憂
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恋文①

それは何気ない朝のこと、私はいつものように遅刻しない時間に登校し、下駄箱を開け、靴を仕舞おうとした。


そうしてすぐに違和感を覚える。

どういうわけか今時珍しい手紙が中に入っていたのだ。


封筒に差出人は書かれていないが宛名には【鳩枝土(はとえど)茅陽(かやひ)様】とある。

送られたのは私で間違いないだろう。

開けてみると便箋が二枚入っており、一枚目の内容はシンプルに“俺と付き合ってください!!”と書かかれている。

という事は、やはりラブレターだろう。

二枚目には、返事は放課後、体育館裏でしてほしい。とあった。

しかし、見知らぬ人物に人気のない場所で会うなんて嫌だ。


何かのバツゲームだったら、只のイタズラだったら

という不安もあり私はその差出人に会いにいくことはなかった。

――――――――――

「よう終人(しゅうと)、お前さ隣のクラスの女子に手紙書いただろ?」

なんでこいつがそんなことを知っているんだ。


「だったらなんだ?」

クラスメイトの太介はニヤニヤと俺を冷やかしてくる。


「朝練のサボり決め込もうとしてたら、これ拾ったんだよ、んで書いた奴の名前がお前だったわけ安心しな。中身は見てねーよ」

シワのよった手紙を差し出された。

間違いなく俺の書いた手紙のようだ。

こいつが見てようが見てまいが、封は開いているので関係ない。


「手紙がポイされたってことはフラれたんだろ?捨てるなんてひでーな」

「いや、そもそも女子は来なかったがな」

大体あのおとなしそうな彼女がそんなことをするだろうか。


「にしても体育館裏に呼び出すなんてベタだな、まあオレを差し置いて彼女なんてゆるさねーぞ!!」

太介は背中をバンバン軽くたたく。元気な奴だ。


「えー先輩に彼女!?ムカつく…」

「でもすぐフラれるわよ、彼女、性格悪いらしいし」

「ならいっかー」


人の不幸は蜜の味、と云う言葉がある。

俺はその言葉が一番嫌いだ。


他人が幸せなのが妬ましく、他人が不幸なのが好ましい、それはまるで自分が幸せから遠退いているようだからだ。


「ねぇ隣のクラスの福ノ(ふくのこう)くんが…」

クラスの女子達がヒソヒソと話している。


「えー!?うっそマジで…」

しかしこちらまで聴こえてくるほど声量が抑えられていない。


「なんでも、好きな女子に告白する為に、放課後学校に残ってたらしいの」

女子はどうして告白など恋愛の話題が好きなんだ。

「でもその女子は来なかったんだってさ…」

それにしても、俺と同じようにラブレターを送ってフラれたのか、可哀想に。


「体育館裏に、青いペンキでね…」

「ちょっとやめてよ!!ていうかなんで赤いペンキじゃないの!?」


そんな恐ろしい話をしていたのか心臓に悪い。


「いなくなっちゃったんだって」




「でもさ、宛名はちゃんと書けよ」

「中を見れば書いてあるからわかるようになっている」

「まあ差出人を書いたところは意外だつーかお前がラブレターなんて意外だ果たし状とか不幸の手紙とか書きそうな目付き悪いお前に好きな女の子がいるなんてマジで」

「うるさい」



――――

「クラスメイトの福ノ幸くんが亡くなりました」

クラスメイトの訃報に、教室中がざわざわとし始める。

名前はいかにも幸せになれそうな彼が、まさか若くして亡くなるなんて、誰も思わなかっただろう。


『あの…鳩枝土さん、これ、君のだよね?』

あまり話したことのない福ノ幸後治(こうじ)くん、彼はいつだったか私の落としたハンカチを拾ってくれた。

それ以来、彼と話したことはなかったけど、きっと優しい人で、名前にふさわしい幸せな人生だったはず。

なのに、どうしてこんなことになったんだろう。

―――――――――――

「あ、鳩枝土さんじゃん。おーい!」

太介が手を振った女子は隣のクラスの鳩枝土茅陽、大人しく、今時珍しい淑やかな女子だ。

俺はそんな彼女に恋文を差し出したが、来てもらえなかった。


何か事情があってこれなかったと都合のいい解釈をしようにも

手紙を棄てられた点がフに落ちない。

きっと優しい彼女なら手紙は家で捨てる。

間違っても道端に捨てるなどしないはずだと、色眼鏡のフィルターをかけている。


「隣のクラスの…えっと…」

「オレ、古森太介(こもりたすけ)と…」

伊木終人(いきしゅうと)だ。話したことはないが君のことはよく見ていた」

彼女への思いがつのり、つい口ばしってしまった。

こうして鳩枝土さんと会話をするのは今日が初めてだからしかがたない。


「えっと、よくクラスの人が話題にしていたから、二人のことはなんとなく知ってたよ」

太介に遠慮なく迫られ、苦笑する彼女もいい。


「きいてよ鳩枝土さーん!こいつ古風なラブレター書いてフラれたらしいんだよ~」

太介は大口を開けてわらっている。

そんなだから女子にモテないんだ。

彼女がほしいなら寡黙であるべきだと俺は思う。


「ラ…ラブレター…!?」

先ほどまで落ち着いていた鳩枝土は、同様し始めた。


昨日の件で罪悪感があるなら最初からこんな反応をしていたのではないだろうか、“ラブレター”という単語を聞いてから落ち着きがなくなったように見える。


「ラブレターがどうかした?」

「なっなんでも…あっ用事を思い出したからごめんなさい!」

鳩枝土はそのまま走り去った。


彼女のポケットから何か白い物が落ちて、それはなんだろうと拾い上げてみると、差出人不明の手紙だった。


「まっまさか…」

「なんだよ終人、ってそれラブレターじゃないか?」

太介はまず封筒を見てから中を見た。


「おい勝手に見るな。お前、俺の恋文も読んだんだろう」

「オレ知り合いの恋愛事情とか苦手なんだよな、でも見知らぬ他人なら平気なんだよ」

つまり知り合いの俺の恋文は見ていない、知らない他人のなら平然と見ると言いたいのか、質が悪い。

しかし彼女に恋文など、これは見てやらなければ。


「えー差出人は不明、宛先は鳩枝土さん【好きです付き合ってください】【返事は放課後の体育館裏で~】なんだこれまさかお前二枚も書いた?」

「そんなわけがあるか、俺は体育館裏になんて呼び出していない。校舎裏だ」

「似たようなものだけどな」

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