楽しい、楽しい
次に目を開けたらまたしても真っ白な空間だった。
さっきと違う所は、綺麗な女性が消えて周りにだいたい50人くらいのプレーヤーと思わしき人たちがいることだ。
キョロキョロ周りを見ていると、見知った顔を見つけた。
そこまで駆け足で近づいていく。
そしておそらく特典のローブのフードを下ろした状態のその人の袖を引っ張る。
ついでに私はフードをかぶっている。
「締にぃ」
小声で話しかける。
すると締都がこっちを振り返った。
黒い髪に紅い眼。
ファンタジーだなー。
と思いながら、人違いでなかったことに安堵する。
「呪怨か?」
コクリと頷いておく。
「ここどこか分かるか?」
ブンブン首を横に振る。
本当は初期設定が終わった後、始まりの街へ転移されるはずなのだ。
「そりゃあ、そうだよな」
そういって締都は考えこんでいる。
「締にぃ、顔隠した方がいいかも」
「え?」
「周りの人たち、嫌な感じがするよ」
肌に伝わる少しびりびりとした感覚。
これは・・・
「わかった」
そういって締都はフードを深くかぶった。
「戒都と來都、見たか?」
ブンブン
「そっか」
そういって私たちは黙り込んだ。
いったいどういうことなのか。
システムのバグ?
それともクエスト?
まったく答えが出ない。
それに周りにいる人たちはたぶん関わっちゃ(・・・・・)いけないタイプの人たちだ。
明らかに敵意を含んだ瞳で周囲を睨む人。
初期装備の剣をなめまわしている人。
狂ったように笑っている人。
殺気まき散らしている人。
眼がいってる人。
まともな人はいったい何人いるのだろうか。
そんなことを考えて10分くらいたった時、不意に自分たちが散らばっているほぼ中心に、
まるで白い床から染み出すようにナニカが這い出てきた。
「・・・!?」
「ああ?」
「キヒヒッ」
それぞれから上がる声。
ソレは中身のない3Mサイズのローブだった。
なんかどす黒いオーラみたいなのを纏い、とても不気味だ。
ソレは不意に、語りだした。
一体どこに口があるのだろうか。
「ようこそ。Free・Skilljob・Onlineへ!私はゲームマスター、榊真一だ。
これよりこのゲームは、ログアウト不能のデスゲームとなる。
こちらの世界でHPが0になると、現実世界の君たちの脳に圧縮した脳波を送り破壊し、現実で植物状態となる。
まあ、ほぼ死んだようなものだ。
外部からの助けは期待しない方がいい。
いまゲーム内の時間はこちらで1年は現実での1分に満たないのだから」
そうゲームマスターが言ったことに、頭が真っ白になった。
デスゲーム?あの、小説とかの?
HPが0になったら現実で死ぬ?
「君たちは選ばれた。私は君たちの脳を調べ、強い悪感情や狂気を持つもの10000人のなかから50人を厳選した。
それが、君たちだ。
君たちにはこのゲームでプレイヤーボスをやってもらう。
このゲームは普通のプレーヤーは35エリア、50のボス、そして50のプレイヤーボスを倒すことがクリア条件となっている。
クリアすると、現実世界に戻れる。
君たちは、プレイヤー全員を倒すとクリアとなる。
プレーヤーボスになるにあったって君たちのステータスを変えさせてもらった。
また、プレーヤーボスのフィールド内以外は例外を除き不死だ。
プレイヤーボスになるにあったって多少制限が付くがそれを詳しく説明する暇はない。
あとでガイドブックを渡しておくからそれを読め、以上だ。
不平、不満は受け付けない。
ではな」
そういってゲームマスターは来た時を逆回しするかのように床に沈んでゆく。
「・・・ッ、待てッ!」
だれかがそう叫んだが、意味はなかった。
ゲームマスターが居なくなったところに文字が浮かび上がる。
≪担当エリアに転送、5;00前≫
刻々とカウントダウンが始まっていた。
私は意外に、すんなりと状況を受け止めていた。
最初は軽く混乱したが。
「デスゲーム、プレイヤーボス、ねぇ?」
クスッ
「面白そうだわぁ」
口元を歪め嗤う。
私は狂っているのだろう、あの時から。
新しい家族にはばれないようにしてきたが、もう抑えなくてもいいだろうか?
復讐していいのだろうか?
その時、ポンと頭に大きな手にが乗る感覚がした。
「落ち着け、馬鹿。殺気でてんぞ」
撫でてくれる暖かい大きな手に、次第に落ち着いていくのが分かる。
唯一の絶対の味方。
「締にぃ、ありがと」
「ああ、あとここではディーだ。時間がない、フレンド登録するぞ」
「は~い、ディーにぃ。私はシュオンだよ。」
いつの間にかカウントダウンは1分を切っていた。
素早くフレンド登録をする。
「後でコールする」
「ん」
「じゃあな」
「バイバイ」
地面に魔法陣が現れ、輝きだす。
意識が、暗転した。