which…? 2
whichの続き?です。
バッドエンド回避のための行動になっているのか、ということで気づいた別の可能性。相変わらず話は進んでいませんがそれでもよろしければ。
なんでうまくいかないのかなぁ、とわたしはひとり途方に暮れていた。
バッドエンドを回避するための祀兄様のお友達と仲良くなろうキャンペーンは悉く失敗に終わっている。
放課後、兄様のトモダチと一緒に帰ろうと祀兄様のいる教室に行っても教室をのぞき込む前に祀兄様が廊下に出てきちゃうから兄様の友達とは知り合いになれる気配すらない。
それに、以前は祀兄様のお友達がうちに遊びに来ることだってあったのに、最近では兄様がお友達の家に行ってるみたいで、うちには全然来ない。
ぬ。
このままではバッドエンドまっしぐらではないか、と考えてはたと気が付いた。
いや、でも逆にこの年齢で婚約しちゃうと、今度は不倫という新たなルートが開始するのでは!?
はっ。
わたしは乙女ゲーム自体はしたことがなく、もっぱら小説で補った知識しかない。転生小説ものでいちばん多かったのは、やっぱり高校生くらいの年齢が主人公になる乙女ゲームが舞台となっているのがほとんどだったけれど、なかには大人になってからのうっふんあっはんなやつもあった。まさに昼ドラ!
さらにさらに、前世の記憶だしあまりはっきりとしていないが、あまりに幼いころから近くにいると逆に恋愛に発展しにくいという研究結果があったような気がする。確かロシアかどこかだったと思うのだが、血のつながりのない男女を幼いころから同じ場所で生活させると7割程度は恋愛には発展しないのだそうだ。
つまり、この時点で婚約を結んでしまえば、幼馴染として親密な関係は結べても、恋愛には発展せず、主人公にあっさり寝取られる可能性が高くなるではないか!
がっでむ!
なんてこったい。
とすると、今までの苦労は全部無駄!
だって、大人が主人公になっても、攻略対象はハイスペックな御曹司だもの。今、わたしの周りにいる男どもは要件を満たしている。
おーまいがっ!
ならばバッドエンド回避のためにわたしは何をすべきなのだろう…?
あ、そうか。高校生になる直前に婚約者を作ればいいではないか!とりあえず主人公とはかかわりがなさそうな人物を見つけて!
そのためにはまず自分を磨かねば!とわたしは意気込みを新たに地下にある図書室へと向かったのだった。
「せっしゃおやかたともうすはおたちあいのなかにごぞんじのおかたもござりましょうが、おえどをたってにじゅうりかみがた」
「何やってんの?」
麗しい美少年フェイスをこれでもかといわんばかりに歪ませた祀兄様にわたしは祀兄様の将来はきっとやんちゃ系イケメンに育つんだろうなとうきうきした。イケメンはなんでもうまい。うむ。
「なにって、外郎売読んでりゅの」
今、うっかり噛んだ気がするけど、なかったことにする。うん、日本人たるもの空気を読まねば!
兄様としてはわたしが噛んだことにそれほど興味がなかったのか、そのまま質問してきた。レディに対する態度としては正しい、のか?
「は?どっからそれ持ってきた?」
「図書室にあったよー。すごいよねぇ」
うちの曽祖父が無類の本好きだったとかで、うちの地下には図書室がある。そんで親戚にもちょこちょこ本好きがいるせいでうちの図書室はどこかの学校並の蔵書を誇るという意味の分からなさを誇っている。そこで、わたしは見つけてしまったのだ。
ういろううり。
もともとは歌舞伎のセリフだったらしいのだけれど、今はアナウンサー養成学校などで滑舌や発生練習のために使われている。
わたしはいかんせん転生者なので(えっへん!)それなりに知識があるのだが、どうも口がまめらないのである。前世でも滑舌はよろしくなかったので、その影響かもしれないが、きっと幼いころから練習すればなんとかなると思うのだ。
おっと、祀兄様の相手ばかりしていては滑舌練習にはならない。わたしは残念ながら美少年にうはうはする属性はもっていないので、祀兄様の顔はきれいだな、とは思うもののそれ以上の興味はない。だって、兄妹だし。いや、鑑賞に値する顔だとは正直思うけどね。今はまだ自分用を持たせてもらってないけれど、中学入るころには持たされるであろうスマートフォンが手に入ったら一通り、写真撮って保存しとくけどね!
それはそれ、これはこれ。
と、再び外郎売を朗読し始めたわたしを祀兄様は理解不能なものを見る目つきでしばらく眺めた後、かなちゃんとじぃに梓兄様は知っているのか、と聞いていた。
なんでそこで梓兄様?
「いえ、本を見つけになられたのもつい先ほどのことですからまだご存知ではないかと」
かなちゃんの言葉にじぃも無言で頷いている。
祀兄様は他にもいくつか質問していたようだけど、わたしの耳には入ってこなかった。
だって、ういろううり難しいんだよ。
今日も平和な一日が終わったな、と思いつつベッドに潜り込もうとしたら、あっさり梓兄様に俵担ぎにされ、兄様の部屋に拉致された。あれ、レディに対してひどくね?
「で、今度は何を考えてるの?」
む。兄様、それではわたしがあほなことを考えていそうではないですか。
ぷんすかぷんすかしてみせたけど、梓兄様に敵うわけもなく。
幸せな人生設計を実行するために、まずは滑舌が良くなるよう練習し、中学卒業間際にきらきらしていないが、それなりに有望な5歳上と婚約するつもりだ、と述べれば、バカなことを考えるな、とおでこをぺちりとされた上、またもや梓兄様に抱きかかえられて眠ることになりました。
わたしは抱き枕じゃないのよ?
why…? 祀視点
僕のいもうとはちょっとどころでなく、どうひいき目に見てもものすごく変わっていると思う。
この間なんか、階段を前転しながら落ちたとかで兄さんにめちゃくちゃ怒られたらしいのだが、そのあと、こっそり僕に自慢するかのように階段でも前転ってできるのよ、と耳打ちしてきた。あれだけ兄さんに怒られておいて、このポジティブさには頭が下がる。しかも、突然のことでじぃもかなちゃんも録画できてなかったの、としょんもりしてた。おい、なぜそこで残念がる?
と、まあ一事が万事こんな感じで僕の妹は本当に変わっている。
最近はなぜか僕の友達と仲良くなろうと虎視眈々と狙っているらしいが、思っていることが顔に出ているし、考え事をしているときはその内容をところどころ口に出しているので、こちらに思考回路が筒抜けになっていることに気付いてない。あほだ。
そのことをじぃに零せば、じぃはどこか遠い目をして、血は争えないのかもしれませぬな、などと意味深につぶやいてどこかに行った。ってかじぃ、妹の暴走を止める素振りくらいはせめて見せろ!なぜそんなに投げやりなんだ!
そして、今度は何をしでかすかと思ってみれば、外郎売を朗読している。
正直、小学生になったばかりの少女が読むものではないだろうし、だいいち、読めていない。本人的には読めているつもりなのだろうけれど、まったく読めていない。
妹付きの使用人である中山に問えば、なんでも昼ドラを回避したい、とおっしゃってましたとの返答。どこから昼ドラが出てきたのかもさっぱりだし、昼ドラなんてものを見たこともないはずなのに、まったくどこから知ったのか。成長に不必要そうなものをあの梓兄さんが妹に見せるわけがない。
きっと今晩はお説教に違いない。
というか、兄さんだけが妹を抱っこして寝るのはずるいから、いつか僕のベッドで寝かせよう。
変だし、よくわからないことをいきなり言い出す妹だけど、可愛いことに違いはない。塾の先生が昔、バカな子ほどかわいいなんて言ってた。あの時はさっぱりなぜバカがかわいいと思えるのかわからなかったけれど、今なら少しはわかる気もする。
とはいえ、妹以外のばかにはイライラするから妹限定だけど。
願わくば妹がこれからもばかかわいいままでいてほしいものだ。
まあもちろん、そのために僕や兄さんがいるわけだけど。