プロローグ「カルムの街へ」
吐く息が白くなる霜月のはじめ。
宿を探して、鉄道沿いの長い道を歩いていた私の目にようやく駅が見えてきた。
「おや、めずらしい。」
時刻表に腰掛け、暇そうにしていた駅員さんは興味津々といった面持ちで
こちらに近寄ってきた。
「まさかお嬢さん、隣街の駅から歩いてきたのかい?」
「いえ、途中で森を抜けたらこの道を見つけたので
しばらく歩いていれば街に着くかと思いまして。」
きょろきょろと辺りを見渡す私を見て、駅員さんは優しく微笑んでこう教えてくれた。
「この先をまっすぐ行くと分かれ道があるから
そこを北に行くとカルムの街に着くよ。この時間ならまだ宿も見つかるだろう。」
ところどころ銀メッキの剥がれ落ちてしまっている
懐中時計をポケットから取り出し、私は時間を確認した。
午後6時―――
やはり冬の夜は早いもので、すでに辺りは黒く染まっていた。
それに木の葉を揺らす風は冷たく、まるで体を突き刺すようだ。
このままでは、とても冬を越せそうにない。
できれば数ヶ月ほど、お世話になれる宿を探さなくては・・・
私は駅員さんに一礼して、カルムの街を目指し再び歩き出した。
しばらく歩くと、なるほど。
駅員さんの言った通り、綺麗に4つに分かれた分かれ道に差し掛かった。
ふと道の端に突き刺さった、木製の古びた分岐看板に目を通すと
東西南北の道の先が丁寧に記されていた。
東・・・ミルフィのお菓子屋
西・・・列車乗り場
南・・・カルムの森
北・・・カルムの街広場
私はカルムの街広場の方角につま先を向け
ぴょんと跳ねて、しょっていたカバンの肩掛けをかけ直した。