表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召使いの私  作者: 村上泉
8/9

08

 その後、生徒会室に戻った。

 三人はあたたかい目で受け入れてくれ、


「もっと、余裕のある大人になれ」


 と、隼人くんが尚人くんに言った。

 尚人くんは嫌そうな顔をしたが、言い返したりはしなかった。


 それから尚人くんが生徒会で忙しい時お手伝いをしたり、お昼ご飯を生徒会のみんなで食べたりと、一緒にいることが多くなっていった。


 生徒会のみんなはモテるから何か事件が起こるかもと、警戒していたが、友人以外、私と尚人くんの召使いではなく、恋人になったことを知らないので、許されているらしい。

 ちなみに早い段階で、近しい人にしか恋人同士だということを話さないと約束していたので、広まることはないだろう。

 尚人くんは不満らしいが、色々(ファンクラブ的な面)を考えて、同意してくれている。


 そんな日常に少しの変化が訪れた。


「転校生の、大宮まいるです。分からないことばかりなので、色々教えてください」


 語尾にハートがつくくらいの勢いで言った。

 私のクラスに来た、転校生の大宮さんは凄く可愛い女の子だった。

 綺麗というよりは、可愛い。


 大宮さんには初日に、友達が沢山出来たようで、大宮さんの周りには沢山の人が集まっていた。

 私は特にその輪に加わることはなかったはずだが、


「今日暇?放課後、駅の近く案内してくれない?」


 と、声を掛けられた。

 わざわざ、周りにいる人を通り過ぎて…。


「一緒に帰る子がいるから…」


 と無意識に警戒していたからなのか、そう言った。


「どうしても、あなだがいいの!お願い!」


 と、強く言われてしまい、流され体質のせいで頷いてしまった。


 尚人くんになんとか誤魔化して伝え、何をされるのか、何を言われるのか、ドキドキしながら大宮さんと二人で駅に向かった。


 駅の近くで、大宮さんが「こっち」と言い、駅の直前の角で曲がった。

 案内して欲しいというわりには詳しいな、とか思ってついて歩いているときに、大宮さんがあまりにも奥へ進んでいくので、ヤバいかな?と思い始めた。


 もしかして、転校してきて初めて見た尚人くんを好きになっちゃって…とかそういうことかな、とか考えているうちに、本当にカフェの前に着いた。

 隠れ家的な雰囲気で、よく見ないとお店かどうか分からないくらいだ。


「本当にあったよ…。すげーな、再現率」


 と、大宮さんから顔に似合わない言葉が聞こえてきた。


「えっと?」


 確かめるように声をかけると、



「さっ、入ろ!」


 と、元の口調に戻った大宮さんがいて、促されて、私はカフェに入って行った。


 カフェは渋めのマスターひとりがいて、店内は私達しかいなかった。

 ここ、大丈夫なのかな?

 なんて考えながら、案内された一番奥の席に座って、私はココアを、大宮さんはアイスカフェオレを頼んだ。

 私がココアを頼んだ時、大宮さんの眉が寄ったのが見えた。


「ごめんね、こんなところまで連れて来ちゃって…。でもここなら誰にも見つからないかなって」


 何を根拠にここは誰にも見つからないと言ったのか、よく分からなかったが、


「ううん、大丈夫だよ」


 と、言う。


「あのね、事情は後から話すから、少し質問していいかな?」


 大宮さんにそう切り出されて、頷く。

 マスターが持って来てくれたココアを飲みながら、大宮さんの言葉を待つ。


「原田さんは、尚人くんと仲が良いんだよね?」


 真っ正面から聞かれたが、敵意は感じず、私は素直に頷く。


「出会いのイベントなんだった?」


 突然訳の分からないことを言われて、私は首を傾げた。


「ごめん、ごめん。尚人くんと仲良くなったきっかけって何?」

「友人の、同じクラスの夏帆と可奈って分かる?あの子達に誘われて、尚人くんと、もうひとり隼人くんの交流会に行ったのがきっかけかな?」


 まぁ、その後、帰る時に倒れそうになってる尚人くんを助けたのが始まりかもしれないけど。


「それで、その帰りに廊下で倒れてる尚人くんを原田さんが保健室に連れて行った。あってる?」


 思っていたことをそのまま言い当てられて驚く。


「大宮さんってエスパー?!」

「違うよ!あははっ、原田さんって面白いね」


 可愛く笑いながら、大宮さんが言った。


「これ聞いたら全部話すから、最後に一つ聞いていい?」


 すぐに真面目な顔をした大宮さんが言った。

 私が頷いたのを確認すると、大宮さんは再び口を開く。


「生徒会の人、全員とも面識があるんだよね?」

「うん」


 私が答えると、大宮さんは考え込むような姿勢をしてから、


「今から話すことを信じて貰えるとは思ってないの。でも、聞いて欲しいの」


 と言った。


「私、前世の記憶があるの。ここがどういう時間軸の中なのか、前世の私が死んでから何年後の世界なのかよく分からないんだけど、私はこの世界を知ってるの」


 前世の記憶がある、という話しは聞いたがあった。

 そういえば、自称、前世どこかの国の王族だとかいう人がテレビに出てたな、なんてぼんやりと思い出した。


「ここは前世私が、やってたゲームの中なの」


 そんな馬鹿な、と言いたいところだったが、大宮さんの目は本気だった。


「マジで?」

「マジで」

「ちなみにどういう系?グロいの?デスゲームとか始まっちゃうの?」


 よくゲームセンターにある獣とか、ゾンビとかが襲ってきて、銃で撃つやつを思い浮かべ、鳥肌がたった。

 怖すぎる。

 無理…。


「全然違うよ。むしろ逆。ほのぼの系子育てRPG。それで、私はそれの主人公みたいなの」


 ほのぼのと言われ、少し安心する。


「そのゲームってどんなゲームなの?」


 そう聞くと、大宮さんはカバンからノートと紙を出して説明してくれた。


 主人公は18才の母。

 卒業と同時に結婚して、子供を育てる。

 育て方次第で、子供がどんな大人になるかが変わる。

 しかし、結構な現実主義らしく、育て方だけでなく、結婚した相手によって、子供の顔も性格も変わる。


 幼少期、少年期、青年期の3パートに分かれているらしい。


 そして、結婚相手の選択は最初の選択肢で決まるようだ。

 主人公が高校生の時、転校生で道が分からず間違えて入った道にあったカフェ。

 そこで初めて注文する飲み物によって相手が決まるらしい。


「大宮さん、まさかと思うけど…違うよね?」


 そのカフェって、と聞く前に、大宮さんは首を横に振った。

 私は自分の頼んだココアをガン見する。


「そのまさかなんだよね…」


 物憂げに溜め息をつく大宮さんはとても可愛らしいが、そういう問題じゃない。


「まさかって、え?ここがそうなの?」


 大宮さんは、迷いなく、アイスカフェオレって言ってたけど、そんな簡単でいいのかな?


「そうなの。ここからは現実の話。私はこのゲームの主人公だった。でも、私は今日のこの選択をする前に、ゲームを始めたの。だから、少しこの世界はおかしくなってきている」

「今日の選択?このカフェでの選択ってことだよね?どういうこと?」


 よく分からないことが多すぎる。


「そう、ここでの選択の前に私はひとりの人を選んだ。未来の旦那さんね。だから、私はここでのメニューで、アイスカフェオレ以外を選ぶことは出来なかった。そして、あなたも」

「私も?でも、そもそも、私には選択肢うんぬんの話は関係ないんじゃないの?」


 私も、と言われ、そう聞くと、大宮さんは首を横に振った。


「そう、本来ならね。でも、今は違う。さっき言った通りだけど、この世界は私のせいで少しおかしくなってきている。だから、使えない主人公の代わりにもう一人主人公をたてた可能性があるの」


「そして、それがあなた」 

 続けるように大宮さんが言った。


「え?!私!?なんで!?」


 混乱して、訳が分からない。


「私にも分からない。でも、あなたが尚人くんをはじめ、生徒会メンバーと一緒にいるってことはそういう事だと思うの」

「そういうこと?」

「生徒会メンバーは、このゲームの結婚相手候補なの。だから、学生時代に交流を深めて…恋に落ちて、というのが基本的な流れなのよ」


 偶然、委員会で隣に座った祐先輩と仲良くなった。

 偶然、友達に双子のファンクラブの幹部がいて、はたまた偶然、ファンクラブの交流会に欠席者が出た。

 そして、帰り道に倒れている尚人くんを発見して…召使いになった。

 偶然尚人くんと帰れなかった日に、駅でずぶ濡れの会長様を見つけてタオルを貸した。

 隼人くんに関しては、尚人くんと関わった以上当たり前だけど、こうも重なるとおかしい。


 とんとん拍子に仲良くなっていった人が全員、学校の有名人。

 そして、全員生徒会役員だなんて、偶然と片付けていいのだろうか?


「私が主人公?」


 改めて、そう呟くと、大宮さんが頷いた。


「ごめんね、そうなの。でも、そのことに縛られなくていいんだよ。あなたの好きにしていいの」


 その大宮さんの言葉に強張っていた身体が少し軽くなった。 


「うん」


 小さく返事をする。


 私は尚人くんが好き。


 それは変わらない。


「あれ?その顔は…決まった人がいるの?」


 さっきの真剣な顔から可愛らしい女の子の顔になった大宮さん。


「うん」

「それって尚人くん?」


 直球で聞かれ、恥ずかしく思いながらも頷いた。


「そうなんだ。大事にしてあげて。私、例のゲームはフルコンプしたから、何かあったら相談して」

「うん、ありがとう」


 とても大きな仲間が出来たようで、嬉しく思いながら笑った。


 それから、私がココアを飲み終わり、大宮さんがアイスカフェオレを飲み終わると、カフェを出た。


 駅まで、色々な話をした。


「尚人くんは独占欲が強いから、絶対浮気しちゃだめだよ。浮気したら、ガチの死亡フラグだからね!」


 というアドバイスを貰ってから駅で別れた。

 大宮さんからたまによく分からない単語が出てくる。

 後で、調べようと思いながら、家路に着いた。







「ただいまー。修哉しゅうや


 駅近の高層マンションの一室の扉を開き、大宮まいるはそう言った。


「おかえりなさい」


 返された声はとても優しく、まいるは足早に声の主のもとへ向かう。

 リビングの扉を開くと、二十代後半ぐらいの男がソファで横たわっている。

 まいるの姿を見た彼は、のろのろと起き上がり、爽やかな笑顔で笑って、 


「おいで」


 と言った。

 まいるは彼のその言葉が大好きだ。

 迷うことなく、彼の方へ歩いて行く。

 ふわりと包むように彼がまいるを抱きしめた。


 まいるは幸せそうに彼の胸に顔を押し付ける。


「今日ね、前話した、主人公の子と話したの」


 くぐもったまいるの声。


「へー。どう?その子は平気そう?」


 彼のその言葉にまいるは首を横に振った。


「だめかな。もう好きな子がいるみたい」


 彼は「そう」と残念そうに言ってから、


「まいるが主人公じゃないならなんでもいいよ」


 と優しく笑って、まいるの髪を撫でた。



 大宮まいるはこのゲーム「子育て日記」の主人公だった(・・)。

 あくまでも過去のことだ。

 小学生の頃には、彼に出会い、恋に落ちて、主人公の資格を失った。

 それに気づいたのは、中学生に上がった頃で、全てを思い出し、なんとなく、一人の彼を選んだ私は主人公ではなくなってしまったのだと分かった。


 そうして、高校生になったなら、主人公を探そうと決めていた。

 私が投げ出してしまった分、彼女の手伝いをしようと思ったのだ。


 しかし、彼女も私と同じだった。

 彼女も直に主人公の資格を失うだろう。


 ただ、ゲームの中での結婚相手候補を知っている私としては、尚人くんをはじめ、みんなには幸せになって欲しい。


「あの子なら、尚人くんを幸せに出来ると思うの」


 まいるは願う気持ちで言った。


「じゃあ、まいるは俺が幸せにするね」


 彼ー、新馬修哉しんばしゅうやは言った。

 彼も主人公の結婚相手候補の一人だ。


 しかし、彼もまたゲームから離脱している。


 まいるは思った。

 この世界は失敗策なんだと。


 そして、ざまぁみろとも思う。


 神様の思惑通り、ゲーム通りになんて動いてなんて上げないよ。


 そう心で呟いて、まいるは彼の胸に顔をうずめたまま、睡魔に誘われるまま、眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ