07
その次の生徒会での集まりの日、尚人くんに連れられ、生徒会室に行った。
「麻耶は俺の恋人になりましたー」
尚人くんは生徒会室に入るやいなや、そう高らかに宣言した。
私は少し照れくさくなって、俯く。
「何それー。召使いだのなんだの言って無理やりそうしたんじゃないのー?」
不満げな顔の隼人くんがそう言うと、尚人くんも同じように不満げな顔をする。
「そんなわけないよ!」
「本当に?」
隼人くんはまだ突っかかる。
眉間に皺を寄せた尚人くんが私を見た。
そして、いきなり首の後ろを掴まれたかと思うと、尚人くんが近付いてきて、唇が合わさった。
みんなの目が刺さるような気がして、私はすぐに尚人くんを突き飛ばし、生徒会室の奥に逃げる。
そして角に落ちるように座り込み、体育座りで顔を隠した。
「麻耶!?」
焦った尚人くんの声が聞こえてきたが、そんなもの知るか!
「馬鹿、最低!尚人くんの馬鹿馬鹿馬鹿!」
私は叫び、目を閉じる。
「麻耶ごめん」
さらに焦った様子で近付いてくる音がする。
「来ないで!」
と鋭く言うと、足音が止まった。
するとまた、別の足音が近付いてくる。
「大丈夫?マーヤちゃん。肩貸そうか?」
祐先輩だ。
「俺はお茶を入れよう。緑茶でいいか?」
今度は会長の声。
「やっぱりさ、尚人やめて、俺にしなよ!」
最後は隼人くん。
「だめ!麻耶は俺のお嫁さんなの!」
大きな尚人くんの声がして、無理やり立たされる。
手をつかまれ生徒会室から連れ出された。
「尚人くん!どこ行くの!?」
半ば引きずられているような状態になりながら聞く。
「機嫌が悪いから、保健室行く。今の時間は誰もいないはず…」
怖い顔をしながら尚人くんが言った。
機嫌が悪いって…、もとより悪いことをしたのは尚人くんじゃん!
荒々しく尚人くんが保健室のドアを開ける。
本当に誰もいないようだ。
尚人くんは自分の家にいるかのようにソファーに座り、手で私も隣に座るように合図する。
「麻耶は俺の恋人でしょ?」
怒った口調の尚人くんは可愛く拗ねているというより怖い。
「そうだけど…。隼人くんの言ったこと?」
尚人くんの顔を見つめながら聞く。
「違うよ!いや、違わないけど…。隼人だけじゃない!他のみんなだって…」
と、眉を下げて尚人くんが言った。
会長様も祐先輩も?
「あー!もー!なんでこんな面倒くさい子、好きになったんだろー!?」
尚人くんが自棄気味に言うので、胸がちくりとした。
「尚人くん…」
今までずっと私が尚人くんを守っているつもりでいたのに、私は尚人くんに見捨てられてしまうのかと、怖くなった。
「わーー!違う!違う!そうじゃなくて…、なんて言っていいのか分からないんだけど…」
焦ったように早口でしゃべる尚人くんは新鮮で、思わずぽかんとしてしまう。
「俺は麻耶が好きで好きで、仕方ないってこと」
突然出てきた甘い言葉に驚きながらも、
「私も尚人くんが好き」
と返した。
「もっと言って」
尚人くんは綺麗な笑顔を浮かべながら、そう優しく言った。
「好き」
もう羞恥心とかいうものは麻痺してしまっていた。
「もっと」
「好き」
「もっと言って」
「大好き」
綺麗な顔が近付いてきて、唇と唇が重なった。
本当に触れるだけの、キス。
私は目を閉じず、目の前にある尚人くんを見ていた。
「なんで目、閉じないの?」
少し離れてから尚人くんが言った。
「もったいないから」
私は迷わずそう答える。
「もったいない?」
「うん。だって、こんな近くにこんな綺麗な顔があるんだよ?見なきゃ損だよ!」
私がそう言うと尚人くんは吹き出してわらった。
「何それ!じゃあ、どんだけ見ててもいいよ。でもその代わり、俺も麻耶のこと見るよ」
「私は見ても面白くないよ」
「いや、すごい面白い」
真顔でそう言った尚人くんが面白くて笑った。
「ほら、笑った顔可愛い」
こんなこと言われて平然としてられる訳がない。
私は顔を抑えてうずくまる。
「どうしたの?」
「恥ずかしよ」
「麻耶可愛い」
再び言われ、照れる前に尚人くんに抱きしめられた。
幸せかも…。