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召使いの私  作者: 村上泉
6/9

06

 

「やっぱり、欲しくなっちゃったー」


 と言った隼人くんに、「何が?」とは聞けなかった。

 笑顔が怖くて…。



 その日の帰り道。


「ねぇ、麻耶。今日のお昼、何してたの?」


 さっきから一言も声を発しなかった尚人くんが言った。


「隼人くんと会ってた」


 後ろめたいことがあるようなないような気持ちでそう答えた。


「隼人と…何してたの?」


 なんとなく、尚人くんは何があったのか知っているような気がして、でも全て答えることは出来なくて、


「尚人くんの話をしてた」


 と言う。

 尚人くんは少し驚いたような顔をして、


「なんで、抱き合ってたの?」


 と聞いた。

 なぜ知っているのか、と思ったが、あれだけ目立っていたわけだから、噂になっていたのかもしれない。


 理由を説明しろ、と言われてもなかなか難しい。

 身体が勝手に動いていた。

 私はどう答えようかと、考えていると、


「ねえ、麻耶」


 という、尚人くんの声が聞こえて来た。


「麻耶も隼人がいいんだよね。俺は隼人の代わりだもんね」


 尚人くんは今にも泣きそうな顔でそう言った。


「違うよ」


 尚人くんにそんな顔させるくらいなら、もっとちゃんと言っておけば良かったと、今更後悔している。


「初めて会った時は、尚人くんにも、隼人くんにも興味はなかったの。だから、隼人くんのファンでもなかった。でも、今は違う」

「それって、隼人にも興味があるってこと?」

「うん」


 途端にまた泣きそうな顔をする尚人くん。

 そんな尚人くんに私はそういうことじゃない、という意味を込めて、首を横に振った。


「尚人くんも隼人くんもお互いを意識しすぎてる。もっと自由でいいんだよ」


 ずっと二人を見てきて、むずむずしていた気持ちをやっと口に出した。

 余計なお世話かもしれないが、このままでは、このねじれた二人の感情はほどけないと思った。


「よく分からない。隼人とは生まれた時からずっと一緒にいたから。隼人がいなくなったら、なんだか自分の半分がなくなっちゃいそうで怖い」


 と、尚人くんは言った。


「大丈夫」


 何の根拠もなくそう言いたくなった。


「大丈夫、私がいる」


 自分でも無責任なことを言っている自覚はある。

 でも、そんなことを言う尚人くんを守りたいと思ってしまったんだ。



「ぎゅってして」


 手を広げて、甘えた声で尚人くんは言った。


 可愛い。

 可愛すぎ。


 迷わず私は、尚人くんに抱きついた。


 私より少しだけ高い位置にある尚人くんの顔を見上げると、満面の笑みを浮かべた尚人くんがいた。


「隼人なんかにあげない。ずっと一緒にいようね」


 幸せそうに尚人くんはつぶやいた。

 私は大きく頷いてみせた。



 それから、何だかんだで尚人くんの召使いを続けている。

 生徒会メンバーの皆さんとはお友達になった。

 勿論、隼人くんとも。


 尚人くんは常に私が隼人くんに接触するのを警戒しているみたいだけど、何だかんだで、二人は仲良しだ。


 会長にはよく映画鑑賞に誘われる。

 副会長の祐先輩は最近口説きがパワーアップした気がする。

 隼人くんは段々心を開いて来てくれたようで、柔らかく笑うようになった。


 しかし、尚人くんは、困ったことばかりする。


 突然、キスをしようとしてくる。

 まだ未遂だが。

 怒ると、「ごめんね」と綺麗な笑顔を向けられて、許すしかなくなってしまう。

 それに、最近は一緒にいるとドキドキする。


 今までは、可愛い!可愛い!と思っていたはずなのに、ふとした瞬間の仕草をかっこいいと感じてしまったり、とにかく心臓が保たない。



「麻耶はさ、俺のことどう思ってるの?」


 そう聞かれたある日の昼休み。

 私の心の中がバレたのではないかと思って、ひやひやしながらも、


「尚人くんは?」


 と聞き返す。

 困ったら質問で返すなんてなんて、卑怯なの!?私!?


「俺は、愛してるよ」

「え?」

「だから、愛してる」

「誰を?」

「麻耶を」


 尚人くんはいつものすごく綺麗な笑顔を向け、


「俺は麻耶を愛してる」


 とはっきりと言った。


 心臓が有り得ないほど早くなって、座り込みたい気分だ。


「麻耶は?」


 そうもう一度聞かれ、逃げることも出来ず、


「好きかも…」


 と曖昧な返答をしてしまう。


「えーその程度なの?まぁ、いいや。そのうち麻耶にも愛してるって言わせるから!」


 そう言った尚人くんはかっこよくて、これは近いうちに言うことになるだろうな、と思った。


「麻耶は今日で、召使いを解雇です!今日から、俺の…お嫁さんに昇格です!」


 楽しそうに歌うように尚人くんは言った。


「ちょっと待って!お嫁さんなの?恋人はすっ飛ばすの!?」

「うん!すっ飛ばす、すっ飛ばす。だって、ずっと一緒に居てくれるんでしょ?」


 あの日を思い出し、頷く。


「いや、でもそれにしたって、ほら?まず恋人になろうよ!」


 私が強く提案すると、尚人くんは渋々といった感じで、


「仕方ないなぁー。じゃあそれでいいよー」


 と言い、尚人くんは私に握手を求めるように手を差し出して来た。


「これからもよろしくね、麻耶」

「よろしくお願いします、尚人くん」


 と、手を取った。

 すると、すぐに手ごと身体が引き寄せられ、尚人くんと密着することになる。


「ねぇ、キスしていい?」


 すぐ近くに美しい顔がある。


「だめ」


 私は即答する。

 絶対ダメだ。

 今されたら、気絶する自信がある。


「どうしても?」


 そんな、可愛い顔を向けられたって折れる気はない。


「だめなものは、だめ!」


 私が強く拒絶すると、本当に落ち込んだような顔をする尚人くん。


「また、今度…ね」


 小さな声で私はそう言ってしまった。

 私はつくづく、尚人くんに弱い。


「うん!」


 尚人くんはそう笑って、二人で教室まで戻った。




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