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召使いの私  作者: 村上泉
5/9

05

「ゲームって、何するの?」

「期限は一週間。学校で隼人くんを見かけたら、必ず声をかけること。ただそれだけ」


 私がルールを説明すると、隼人くんは少し考えるような素振りをしてから、一週間の間に15回以上は隼人くんを見つけて声をかけること、一回でも間違えたらゲームオーバーというルールが隼人くんによって付け足された。


「うん、後はゲームに名前を付ければばっちりだね!」

「別に付けなくてもいいんじゃ…」


 隼人くんの声を無視して、少しの間考える。


「隼人探しゲーム、でどう?」


と、言ってみた。

さすがに安直すぎたかな、と隼人くんの反応を待っていると、ぶっという音が聞こえた。

 隼人くんの方を見ると、噴き出して笑っている。


「そのままじゃん」


と言いながらも笑い続ける隼人くん。


 やはり尚人くんと似ている。

 でも、笑った時の雰囲気は全然違って、尚人くんは美しく笑うが、隼人くんは可愛らしく笑うんだな、と思った。


「うん、気に入った。いいじゃん、隼人探し」

「それはよかったです」


 ほめられたのだが、ひねりもくそもあったものではなかったのでとりあえずそう返しておく。


「じゃあ、ちゃんと探してよね、俺を」


 と隼人くんは言って、「じゃあね」と改札の中に入って行った。

 気づかないうちに駅に着いていたようだ。

 私はもう気づかないだろうけど、と思いながら隼人くんに小さく手を振った。


 すると、隼人くんは突然振り返り、私が手を振っていたことに気付いたようで大きく手を振り返してくれた。


 それから一人になった帰り道、尚人くんから五件の着信と、十数件のメールが届いていた。


「いまどこにいるの?」


 というのが主な本文だった。

メールで話して誤解があったら面倒だと思ったので、「明日話すね」というメールを送っておいた。


 次の日、朝から私の教室に来た、尚人くんに昨日の説明を求められ、ありのままを話した。

 ゲームの話をすると、


「そんなのしなくてもいい!まったく、麻耶は一体何を考えてんだよ」


 と怒りだしてしまった。

 しかし、自分から言い出した手前、隼人くんにゲームの話を取り消すとも言えない。

 どうにか納得して貰おうと、思うが無闇に経緯を話す訳にもいかず、


「ごめんね」


 と、謝ってる。

 しかし、尚人くんは顔をそっぽに向けるだけ。

 このまま、放置したら凄く不機嫌になりそうだ。


 困った私は、


「じゃあ、尚人くんのして欲しいこと、なんでも一つだけする!どう?」


 と、提案してみた。

 ちなみにこれは母が私の小さい頃にぐずる私によく言ってた言葉だ。


「うーん。分かった」


 と、尚人くんは少し考えているようにうなってからそう頷いた。

 良かった、と一息ついてから、尚人くんと別れた。



 それから一週間、わざわざ隼人くんのいる一年生の教室を通ったりと、隼人くんを探し回り、最終日前までにゲームはクリアしてしまった。


 そんな私に、隼人くんは文句をつけるようになり、なんだかんだで、距離は近付いてきていると、思う。

 

 そうして、ゲーム終了の日。

 お昼休み、いつも通り尚人くんとご飯を食べ、自分の教室を戻る途中で校庭でサッカーをやっている隼人くんを見つけた。


 校庭まで行って声をかけるのは面倒くさいと思ったので、窓を開けてそこから大きな声で、


「隼人くんー」


 と叫んだ。

 隼人くんは声の主を探し周囲を見回してから私を見つけると、


「それ反則ー。近くまで来なきゃだめー」


 と叫び返してきた。

 仕方なく、私は校庭に行った。


 私を見つけると、隼人くんはサッカーをしている人の輪から離れ、私の所まで来てくれた。


「隼人くん、みぃーつけた」


 と私が言うと隼人くんは


「そりゃ、外でサッカーなんて尚人がしてるわけないよね」


 一瞬皮肉かと思ったが、隼人くんの顔を見て、違うと分かった。

 隼人くんは何を思っているのだろう。


「うん…」


 私はそうとしか答えられなかった。


「だから今のは無効ね!」


 と、わざとらしい隼人くんの明るい声が聞こえて、私は隼人くんの顔をみた。

 この笑顔は違う。


 笑っているのに、泣いているような顔。


「そんな顔で笑わないで」


 心の声が漏れるように、私は言っていた。

 隼人くんが私を見つめ、何か言おうと考えているようだった。

 困ったように前髪をかきあげた隼人くん。

 その瞬間の顔が尚人くんと重なって私は思わず、隼人くんを抱きしめていた。


「そんな顔で笑っちゃだめ」


 私が再びそう言えば、隼人くんの肩が大きく揺れた。


「母親も、父親も、教師も、大人はみんな、俺に笑えって言った。笑ったらその場はうまく収まったから、俺はいつも尚人の代わりに笑ってた」


 隼人くんは私に抱きしめられた状態でそう言った。


「俺は尚人の代わりにスポーツをたくさんしたし、外に出て、遊んで友達もたくさん作った。尚人は出来ないから仕方ない。だからその分俺が頑張らなきゃいけない。俺が頑張らなきゃ…」


 隼人くんの言葉に泣きそうになった。

 尚人くんへの気持ち故にと思うとさらに切なくて、私は泣くのがこらえれず、泣きながら、


「頑張らなくていい。出来ないって言っていいんだよ」


 と言った。


 隼人くんは私の制服のシャツをつかんだ。

 皺が出来そうなくらい強く。



 尚人くんは隼人くんにコンプレックスを抱いていた。

 しかし、それは隼人くんも同じだったのだろう。


 尚人くんは自分の出来ないことを出来る隼人くんを羨ましく思っていた。


 しかし、それは隼人くんが尚人くんの分も背負おうとした結果。

 だからこそ、隼人くんは全てを共有することを望んだのだと思った。



 昼休みが終わるチャイムが鳴る。

 時計を見るために顔を上げると、何人かの視線を感じた。


 今更に恥ずかしくなり、


「隼人くん…」


 と控えめに声をかけると、隼人くんは私から離れ、顔を覗き込んできた。

 それから


「ううんー」


 と、唸り、私をじっと見つめてくる。

 な、なに?

 「抱きしめたからお金とるよ?」とか言われるの?


「へへ、やっぱり、欲しくなっちゃったー」


 隼人くんはそう言って今度は黒い笑顔を浮かべた。


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