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召使いの私  作者: 村上泉
1/9

01

 中庭のランチスペースに数十人の女の子が二人の男の子を囲うように座っている。


「隼人くん!今日のお菓子は私が持ってきたのー!食べて食べて!」


 友人のいつになく高い声が響く。

 こういう時の友人は化粧プラス色々キャラを作っているのでもはや別人だ。


「うん。おいしいね、これ。尚人も食べなよ」


 隼人くんと、呼ばれた男の子は、異国の血が混ざってるとかで、少し薄い色素の目で、同じ顔の男の子に話し掛けた。


「うん、おいしいけど、ね」


 尚人と、呼ばれた方の彼はお菓子を口に入れたがにこりともしない。  

 同じ顔の二人が並んで座っているが、片方はにこにこ笑っていて、もう片方は無表情。


 面白いくらい正反対な二人だ。


 なんでこんな所にいるんだろう、と心の中で呟き、私ー原田麻耶もお菓子に手を伸ばした。


 昨日は「用事がある」と私の遊びの誘いを断って去った友人二人、夏帆と可奈が、今日はその「用事」とやらに私を連れていくと言い出したのだ。 


「せっかく空きができたんだよ!二人に興味がなかったとしても眼福だから!もったいないから!」


 と。


 彼女達のいう、「用事」とは、この同じ顔で正反対の双子、中江隼人と、尚人との交流会のことだ。


 まぁ、簡単に言ってしまえば、ファンクラブのお茶会といった所だろう。


 この双子はファンクラブが出来る程モテる。

 そして、私の友人二人はファンクラブの幹部のため、双子の気まぐれで行われるこのお茶会に毎回参加出来るのだ。

 しかし、ファンクラブ数は恐ろしいほど多いので普通の人はそうはいかない。

 毎回抽選なのだそうだが、今日は一人欠席者が出たからと、幹部の力を使い、私をねじ込んだらしい。

 友人何者!?


 そんなの望んでいないが、友人の好意だと思うと強く断ることも出来ず、なんとなくこの場所に座っている。


 確かに友人がいうように眼福だ。


 色素の薄い髪に、透けるように白い肌。

 絶対私より綺麗な肌だ。

 俯くと睫が際立って、本当に女の子みたいだ。



「今日は機嫌が悪いから帰るね」


 という声が聞こえて不意に意識を尚人くんの方に向ける。


 機嫌が悪いから帰るって…なんだ、それは…。


 ちなみに双子は高一で、周りはほとんど上級生に関わらずこの様子だ。

 私たちもこの双子の一つ先輩なはずなのだが。

 よく怒られないな、と思う。

 いや、イケメンはなんでもありなのかと、周りの様子を見ていて思う。



 尚人くんは立ち上がったようで、その場を去っていった。


 なんだか周りがざわざわして、今なら私も抜けられそうだったので、友人に声をかけて、その場を離れた。


 バッグをとって帰ろうと、教室に向かっている途中で、人気のない廊下の端で誰かが倒れているのが見えた。


 つい駆け寄ってしまい、顔を覗き込む。


 中江尚人!?


 戸惑いながらも、


「大丈夫?」


 と聞くと、彼は首を横に振った。


「保健室いく?」


 私がもう一度聞くと、今度は縦に振った。


 尚人くんは細いから私がおんぶ出来るかなっと、背に背負おうとしようとしたら、彼に軽く背中を叩かれた。

 ダメなようだ。


 仕方なく、彼の肩を私にもたれかけさせて、歩き出した。




 保健室に着き、先生に言い、ベッドに寝かせた。


 肌が白い。

 でもそれ以前に本当に顔色が悪いようだ。


 先生が慣れた様子でベッドに寝かせる以外、尚人くんに何かしようとはしない。


 もしかして、保健室常連さんなのかな?


 そのまま帰ることも考えたが、それはなんだか薄情な気がしたので、起きるまで待つため、尚人くんのベッドの横の椅子に座った。


 つらそうに眉間にしわを寄せた尚人くんを眺めていると、突然閉じられていた瞼が開いた。


「誰?」


 今更ながら聞かれる。


「原田麻耶です」


 そう答えると、尚人くんは眉間の皺を深めて、


「どっちのファン?」


 と低く言った。


「どういうこと?」


 尚人くんの質問の意味が分からず聞き返す。


「僕のファンか、隼人のファンか。どっちの?って聞いてるの」


 随分と不機嫌そうだ。

 いや、不機嫌というより、体調が悪いのか。


 どっちのファンでもないが、きっぱり否定するのもどうかと思い、どう答えようかと迷っていると、尚人くんは小さく、


「なんだ、隼人のファンか」


 と面白くなさそうに呟いた。

 とんだ勘違いだ。


 否定しようにも、彼はまた瞼を閉じてしまったようなので、私も口を閉じた。

 しかし、汗をかいていて、つらそうなだったので、タオルでふいてあげようと手を近づけると掴まれた。

 嫌だったか、とすぐに手を引っ込めたが尚人くんは私の手を離そうとしない。


 さらに、尚人くんは私の手を掴んで抱え込んだ。 


 なんだ、この生き物は…。

 可愛いすぎる。


 さっきは「機嫌が悪いから帰る」発言にひいたが、多分体調が悪かったのだろう。

 ならなんで素直にいわないのか。 


 数分後、先生が職員会議でいなくなった。



 それから30分後、尚人くんは再び瞼を開けた。


「あれ、あんたまだいたんだ」


 冷たくそう言った尚人くんだが、少し嬉しそうだ。

 なんだこのこ、可愛いすぎる。


「うん。ごめんね、そろそろ帰るね」


 と、少し小さい子を相手にしている気分になり、幼稚園の甥っ子にするような優しい声で言い、席を立つ。


「ま、待って」


 焦ったように、尚人くんは言った。


「何?」

「あの…」


 言いづらそうに尚人くんは目を伏せる。

 睫バサバサだなー、おい!


「俺の、召使いにしてあげる!」


 何を言い出すんだ、この子は。

 普通こんなこと言ったら怒られるよ?


 でも、この顔に怒れる気はしなくて、やんわりと断る。


「召使いは嫌かな…」

「でも、隼人と同じ顔だよ。それに僕と一緒にいたら隼人ともいれる機会が多くなるじゃん」


 尚人くんの言葉を聞いて、私はさっきの誤解を解いていないことを思い出した。


「私は…」

「だめなの?」


 誤解を解くために発したことばを途中で遮られ、悲しげな顔で見つめられてしまえば、頷くしかないだろう。


「ありがとう」


 すっごい可愛い笑顔を頂きました。


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