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<第三章 実演>

 中尉が出て行った後、俺はあまり美味しくも無いメシを食い(中尉ではない人が持ってきた)、その後、いかにも刑務所みたいな個室へ移された。


 メシ係(俺より年下っぽい)の人は俺としゃべるなと言われてるのか、必要最低限のことしか話さない。

 俺が何を聞いても、無視するか、


「神崎中尉に聞いてください」


 としか言わない。何なの、ほんとに。

 やること無いし、不安だし、まだ寒くないから良いものの、これが冬だったら大変だ。

 これからどうなるんだろう。分からないことだらけだ。大正とか歩兵とか俺の頭の限界を超えてる。

 スマホや財布や鍵など持ち物は身体検査の時に取り上げられている。時間も分からない。

 その後は誰もやってこず、俺は一人寂しく、汚くてちょっと臭い毛布にくるまって寝た。


 次の日は丸一日何もなかった。

 昨日と同じ人が朝昼晩とメシを持ってきただけ。

 メシはまずいが量は多かった。大き目の茶碗にマンガみたいにご飯が山盛りついである。

 驚いたのがトイレ。なんと汲み取り式だった。人生二回目。小さい頃にキャンプ場で使って以来だ。まあ現場のトイレも似たようなものだから使うのに問題は無かったけど。それとトイレの紙は普通のロールじゃなくて四角のが何枚も重ねて置いてあった。

 こうも古い物ばかりあると本当に大正の時代に来てしまったのかと思えてくる。ドッキリを疑ってカメラを探してみたがどこにもなかった。


 それで、メシを持ってくる人に新聞があるか聞いたら、しばらくして持ってきてくれた。

 最初は読めなかった。難しい漢字が使ってあるし、日本語じゃないみたい。それで日付を探してて気が付いた。文字が反対に書かれてる。右から左に書いてあった。なんで?


 苦労しながら読んでると戦争のこととか書いてあるっぽい。今、戦争してるの?

 独逸がドイツで仏蘭西がフランスだと分かるのにちょっと時間がかかった。他にも露西亜とか英吉利とか、カタカナで書いてくれたら読みやすいのに。

 それにしても読みにくい。言葉遣いも古くて古文ぽい。

 やることも無いので頑張って新聞を読んだ。欧州大戦て書いてるので、どうやら第一次世界大戦らしい。欧の字も、戦の字も今のと違って難しい字だ。

 ちなみに日付は大正七年六月十一日になってた。


 俺って本当にタイムスリップしちゃったの? なんで? あの爆発が原因?

 2014年から1918年だと96年前に来ちゃった?

 映画か漫画だったら何とも思わないけど、まさか自分に起こるとは。超びっくり。

 でも、ユンボごと来たのが不幸中の幸い。もしユンボが無かったら、俺、すぐに折れてたかも。

 こうしてメシ食って、新聞読んで、メシ食って、新聞読んで、夜になったら明かりが無くて暗いので寝た。二日目の終わりだ。


 三日目。

 朝メシの後、出すもの出して昨日の新聞(今日の新聞もメシ係の人に頼んである)を読んでたら、中尉がやって来た。

 一日しかたってないのに懐かしくて涙が出そうになった。

 よく見ると、この人、けっこうイケメンの気がする。年は俺より一つか二つ上かな。なんか、頭も良さそう。

 服はびしっとしてるし、動きもびしっとしてる。

 かなりモテそう。なんて考えてると、


「今日はあの機械、ユンボと言ったか、あれを動かしてもらう。できるか」

「できます。壊れてなかったらできます。多分大丈夫です」

「よし、分かった。付いてこい」


 俺は中尉とメシ係の三人で、昨日の運動場みたいな所へ移動した。



 俺のユンボちゃんはおととい別れたままで停めてあった。久しぶりに現代に戻ったような感じがする。

 ユンボの周りは十メーター位離れて高い木の板で囲んである。現場を囲う仮囲いみたいだ。

 一日でやったのか。仕事が早いな。


 周りを見ると俺たち三人の他に、少し離れた所でおじさんが何人か立ってこちらを見ている。

 偉いさんかな。


「壕を掘るのにどの位かかる」

「ゴウ?」


 ほんとに中尉の話は分からない言葉が多い。


「ああ、すまん、えっとだな、とりあえず縦が六尺、横が十尺、深さ四尺の穴を掘れるか」

「シャク?」

「んっ、縦が二メートル、横が三メートル、深さ一メートルだ。どうだ、掘れるか」


 あっ、長さのことか。普段使わないからとっさに分からなかったよ。

 俺もこの業界長いから尺くらい知ってるよ。


「その位なら十分もかかりませんよ。掘りましょうか」

「ああ、やってくれ」

「じゃあ、地面にその大きさの線を引いてもらえますか。そこを掘りますから」


 メシ係が地面に線を引いた。

 俺は腕の見せ所だとユンボに乗り込んだ。

 ユンボはざっと見たところ壊れてなさそう。ちょっとだけ心配しながらエンジンを掛ける。ブルロォンと一発でかかった。

 よし、やれる。

 俺は張り切って掘り始める。

 まずはバケットを軽く地面に食い込ませる。普通の踏み固めてある土だ。さらに、ぐっとバケットを入れる。下の層もそんなに硬くない。問題なさそう。

 大まかに掘って、土は横へ積み上げておく。垂直の面を出すのは腕が要る。後でじっくり俺の腕を見せてやるぜ。


 サクッとバケットを入れて、ググッと食い込ませて、グイッと掘り、グアッと上げて、クルッと回って、ドサッと落とす。


 サクッ、ググッ、グイッ、グアッ、クルッ、ドサッ。

 サクッ、ググッ、グイッ、グアッ、クルッ、ドサッ。


 バケットの幅を大体掘り終わったら、その分横に移動して、また同じことの繰り返し。

 サクッ、ググッ、グイッ、グアッ、クルッ、ドサッ。

 リズムに乗って掘っていたら、三分の一くらい済んだところで中尉が声を掛けてきた。


「榊原、もうよい。よく分かった。止めてくれ」


 せっかく調子が上がって来たのに。それに肝心の仕上げをしてない。いかに垂直と水平の面を出して、角を直角にするかがキモなのに。これを見ればその人の腕が分かる。

 残念に思っていたら偉いさん達が近づいてきて穴を覗き込んでいる。そして小声で話し合っている。


「この穴を元に戻せるか」と中尉。

「大体で良いなら。やりましょうか」

「頼む」


 バケットでズズズーっと土を押して穴に落とす。そして、バケットの裏でトントンする。これの繰り返し。


 ズズズー、ドサッ、トントン。

 ズズズー、ドサッ、トントン。


 だいたい埋め終わったら、キャタピラで踏んで固めて置いた。ちょっと土が余ったが、まあこんなものだろう。

 中尉を見ると、


「うむ、ご苦労だった。戻って休んでくれ」と言われた。


 せっかくユンボに乗れたのに、もう終わりか。もっとやりたい。

 なのに、俺はメシ係の人にせっつかれて、元の部屋へ戻ることになった。

 その後は、昨日と同じで、メシ、新聞(今日のを持ってきてくれた)、メシ、新聞、寝る、で終わった。

次章は5/12(月)19時に予約投稿してます。

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