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大学教授 吉田さん シリーズ

吉田の愛犬

作者: 井鷹 冬樹

《登場人物》

吉田 慎太郎    大学教授

タロー       愛犬


この物語はフィクションです。

 吉田の家にはタローという雑種の愛犬がいる。しかしこの愛犬ちょっとした事をするのが好きらしい……


 ある日の事、吉田は論文を執筆中であり、ずっと原稿とにらめっこしていた。

 書いては駄目、書いては駄目、と繰り返して原稿に鉛筆の鉛を当ててはすぐに原稿用紙をくしゃくしゃにしてゴミ箱に投げていた。

「駄目だ。またやり直しだ。どうもうまくいかんな」

 吉田は、原稿をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱へとめがけて投げた。

 ゴミは軽く弧を描いてゴミ箱のふちに当たり床に転がった。

 タローは転がった紙ゴミをすぐさま口でつかみ、自分の遊び相手にする。

『クウウウン(うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ)』

 タローは口に銜えた丸い紙ごみをポトンと落として、前足でゴロゴロと転がしてみる。紙ゴミはくしゃくしゃと小さな音が鳴った。

『……』

『クウウウン(楽しいいいいい!)』

 そうタローは丸い物を見ると転がして遊ぶのが大好きなのである。その上、最近はお手玉の玉では飽き足らず、丸い球体のような形をしてれば転がして遊ぶのがタローの日課になっていた。

 タローはそのまま丸い紙ゴミを前足でゴロゴロ、次は前足で紙ゴミを蹴り上げる。タローの蹴り上げた紙ゴミは小さく直線にポーンと半円を描いて、飛んで転がった。

『キュウン(とんだぁ!)』

 吉田は後ろで紙ゴミと戯れているタローを叱った。

「タロー! さっきからうるさいよ! 静かにしてなさい」

『グルルルルル(うるさいな。シバくぞ!)』

「全く……」

 吉田は再び原稿に鉛筆の鉛を当てていくが、スタート五文字目で諦めて、消しゴムで消していく。

そんな吉田の後ろでは散らかった紙ゴミで遊ぶタローの姿があった。

『クウウン(やっべ~たまらねぇ)』

 タローのつぶらな瞳はずっと丸くて白く、若干シワくちゃな紙ゴミの映像がずっと写っている。

 吉田は椅子から立ち上がり、タローを体ごと持ち上げた。タローの瞳は白い球体から黒縁眼鏡の中年男性の顔に変わっていた。

「駄目だ! おやつ食べよう。今日は何をやってもうまくいかん日かもな。なぁ? タロー?」

 タローは嫌がり、吉田を歯ぎしりしながら睨む。

『グルルルルル(うるさいぞ! 吉田!)』

「おいおい怒るなよ。分かった。分かったから」

 吉田は、タローを床に優しく置いた。

『キュウウウン (やっと離したか……)

「ったく。何だよもう。せっかく遊んでやろうと思ったのにな。まぁ、いいや。そういや戸棚にゼミ生からもらった黒糖金平糖があったはず。何処にあったかな?」

 吉田は、金平糖を取りに自室から出て行った。

 タローは吉田から解放され、また丸い紙ゴミを転がす。だが、その時間も長くは続かなかった。

 するとリビングからドスドスと大きな足音を立てて吉田が入って来た。

 タローは丸い紙ゴミとは別に、紙専用のゴミ袋と表記された半透明な袋が瞳に映った。

「ありゃありゃ、結構散らかしたな。紙ゴミがいっぱいだな。捨てないといけないな」

 吉田は、タローの丸い紙ゴミを取り上げた。

『グルグルルルル (やめろ! 吉田ぁ!)』

「駄目! タローこんな事するんじゃないよ」

『ウーーーワンワン(その紙ゴミは俺のだ!)』

「まったく」

 吉田は散らばった紙ゴミ、ゴミ箱に入っている紙ゴミをゴミ袋に入れた。

『クウウウウン(あああああ……)』

「よし! これで終わり! さぁおやつを食べよう」

『……………………』

 吉田は、ゴミ袋を縛ってから立ち上がり、自室から出て行った。

 タローは、それを見た後で体を床に倒して横になった。自分の顔が部屋の鏡に映っている。

 若干、人間でいう泣きそうな目をしていた。

 

 

【よほど好きだったのだろう……】



 それからちょっとの間、タローは吉田の言う事を聞かず、吉田の事をずっとにらみ続けていた……


                   END


吉田教授 第5弾です。


今回は、吉田さんの愛犬にまつわるお話でございます。



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