“女らしく”はできません!婚約破棄がムリなら結婚してから逃げ出します!
学校からの夜の帰り道でトラックにはねられた私。
目の前に迫った2つのライト!
瞼を固く瞑っても、なおぐるぐると回り続ける眩しい光!
苦しいし、眩しいし、いい加減にして!!
キレて叫んだ。
「オギャーーッッ」
────あれ?これ、転生?
「セリーネ! 父の言う事を聞いているのか? なんで年頃の女らしく大人しくしていられないのだお前は!!」
「ふんっ、嫌よっ! なんで女だからって政治の話をしちゃいけないの!? 街へ遊びに行ったらいけないの!? どうしてトカゲを飼ったらいけないの!? お腹いっぱいになるまでパンをおかわりしたっていいじゃないっ!!」
転生世界は女性への決めつけがヒドかった。
事業を成功させてる裕福な伯爵家に産まれてラッキーだと思ったのに、反動でめちゃくちゃガッカリした。
だって、前世でもくそ田舎の私の家はそうだったから。
事あるごとに「女だから」「女のくせに」「女らしく」と言われて育った。
でも、前世では私のせいで父親や祖父に責められるお母さんが可哀想で言いなりだったけど、今度は黙って“良いお嬢さん”なんてしてやらない。
言いたいこと言わずに死ぬなんて真っ平ゴメンだわ。
「お前と言う奴は⋯⋯! とにかくなんでもだ!! 明日は婚約者のカナリエッラ公爵家のヴァランティエルリュミエール様がいらっしゃるからなっ! きちんとお迎えするんだぞっ!!」
えぇー、メンドクサイんですけどー。
「ごきげんよう、ヴァル。 別に家同士が決めた婚約者なんだから律儀に毎月顔を出さなくても大丈夫よ? 私はあなたが来なくても気にしないから」
「相変わらずそれかい? 僕は君に会いたくて来ているのにつれないね」
贅を凝らした張り地のソファにゆったりと腰掛けているのが私の婚約者。
クソ親父が作らせた金ピカのティーセットよりもキランキランに輝いている、優美でいて端正で理知的で聡明で泰然として⋯⋯、いくつもの美辞麗句がぴたりとはまっているこの男が私の婚約者。
婚約者が来るっていうんで、侍女総出で着飾らされた私なんかよりはるかに麗しく美しい。
いやマジ、見慣れてなかったら緊張して一言もしゃべれないレベルよ。
「ね、真剣な話、婚約破棄してもいいのよ? 私は跳ねっ返りで知られてるんだから痛くもかゆくもないの。 あなたに相応しい人を選んだらいいじゃない」
「前も言ったけど婚約を破棄する気はないよ?」
きらんきらんの笑顔でいつも通り否定される。
婚約の話なんて腐るほどあったはずなのに、公爵家といえども、お金には勝てなかったのかしら。
お金の力ってすごいわー。
愛の無い結婚なんて嫌だけど、女からの婚約破棄なんてありえないし、好きな人は愛人にするつもりなのね。
妻は文句を言う権利もナシ、と。
あーあー、私も結婚したらお母様みたいに社交以外は屋敷で息を潜めるように暮らすようになるのかぁ。
いよいよ耐えられなくなったら、その時は逃げる。
準備だけはしておかなくっちゃね。
「さぁ、若君、ご挨拶を」
春真っ盛りの庭園には真っ白なガーデンテーブルがいくつも並んで、その前にそれぞれ数人の子供が並んでいる。
みな、公爵家のお茶会に相応しく華やかに着飾っている。
女の子達はみなふわふわとした甘い色のドレスに身を包み、うっとりと僕を見つめていた。
「今日は子供だけの気軽なお茶会である、楽しんで欲しい」
声をかけて一同を見渡すけれど、反応はない。
男は自分より身分が高い僕に萎縮してしまっているし、女の子は自分から男に声をかけるなんてできないからだ。
無反応に心の中で溜息をつく。
その時、一人の女の子が目に入った。
その子は周りが春の花そのものといった淡い色のドレスの中で、黒いドレスを身に纏っていた。
そして僕には欠片の興味もなさそうに、あふっと欠伸をした。
再び会ったのは学園の人気のない裏庭。
カナリエッラ公爵家の嫡子の僕はいつも皆からの注目を集めていて、そんな視線を逃れて一息つける場所だった。
柔らかい草に寝転べば周りからは見えなくなる。
「クソ親父も教師もっ、何で女だからって剣術部に入っちゃいけないのよっ!!」
やけに威勢のいい声に身体を起こせば、女子生徒が地団駄を踏んでいた。
「あら、そんなところに人がいたのね」
驚いた。
皆、僕の前では畏まった態度を崩さないし、ましてや女性ならばここは「まぁ、殿方の前でお恥ずかしいところをお見せいたしましたわ⋯⋯」と恥じらうべきところだ。
それに僕を知らないなんて。
「何か怒っているの?」
「そうなのっ、ね、聞いてくれる!?」
しゃべりだした彼女は止まらなかった。
父親や教師や乳母や身の回りのことから王国の政治についてまで、次から次へ率直に怒りを吐き出した。
主に男という生き物についての愚痴が多かったけれど。
男らしく、公爵家の嫡男らしくと育てられ、周りが僕に忖度するのが当たり前、女性は男を立てるべきと教えられていた僕は度肝を抜かれた。
痛快ですらあった。
「あー、思ってたこと吐き出したらスッキリしたわっ」
一頻り喋り終えると彼女はにこにこと笑顔になった。
美人ではないけれど、その清々しさに見惚れた。
「あら? ね、ちょっと動かないで。 じっとしていてね」
ふいに彼女は僕へと手を伸ばした。
首の後ろあたりへと伸ばされた、たおやかな令嬢の指には、何ということか鮮やかな黄緑色の芋虫が摘まれていた。
思わず叫ばなかったのは、公爵家の教育の賜物だったろう。
男は虫ごときで動揺してはいけない。
だけど僕は虫が嫌いだ。
足がたくさんあるのはもちろんだけど、全くないこの芋虫みたいなのはもっと大嫌いだった。
反射的に飲み込んだ叫びで息ができない。
彼女は僕には構わず、ぽいっと芋虫を近くの茂みへ投げ込むと「では、ごきげんよう」と颯爽と去っていった。
その姿に肝を抜かれるどころか、骨抜きになった。
⋯⋯なんて凛々しいんだ。
すぐに彼女のことを徹底的に調べ上げた。
まだ婚約者はいない。
いても構わなかった。
それならば公爵家の力を使って、そちらを破談にするだけだ。
幸い、彼女の縁談に悩んでいた父親の伯爵は二つ返事で了承をした。
父はあまり令嬢らしくないのを理由に反対したけれど「公爵家にとっても、僕にとっても彼女は必要不可欠な存在なのです」と説得した。
我が領地の主な産業はシルクだ。
あの艷やかで滑らかな布はそう、大きな芋虫が吐き出す生糸からできる。
想像するのも嫌なのに当主になれば視察は免れない。
嫌だ。無理だ。ありえない。
ふふ、君はこの婚約は家同士の利益のためだと思い込んでいるようだけど、それだけじゃないっていつになったら僕の言葉を信じてくれるのだろうね。
まぁ、嫌でも初夜でわかるかな。
僕が骨抜きになったように、僕も君を骨抜きにしてあげる。
ああ、その日が待ち遠しいよ。




