プリシラの兄
「「「(お、恐ろしすぎる……!あの手紙に一体、何が書かれていたんだ……!?いや、知らない方が身のためか……!)」」」
セドリックも他の騎士達も手紙の中身までは見ていないため、少し戸惑う。
直立不動の状態で視線をさまよわせる彼らを他所に、プリシラはレクスの服の袖を引っ張った。
「ねぇ、私このまま遠征に参加しても大丈夫?何か不都合があるなら、帰るけど(迷惑を掛けるのは、本意じゃないし)」
「いいや、大丈夫だ!帰らないでくれ!万が一、バーラン王国の者達とかち合ったらと思うと気が気じゃない!あと、単純にプリシラと一緒に居たい!」
ガシッとプリシラの肩を掴み、レクスは必死に引き止める。
その様子を見て、精霊達は小さく肩を竦めた。
『わぁー、ダダ漏れだねー』
『相変わらずって、感じー』
『むしろ、シスコン具合に磨きが掛かってなーい?』
『最近、プリシラに会えてなかったもんねー』
自分達もプリシラ大好きなくせに、レクスの態度に若干引いている精霊達。
苦笑にも似た表情を浮かべる彼らの前で、プリシラは口を開く。
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔するね。それで私用の寝床を用意したいんだけど、場所はどこがいいかな?」
「俺のテントの横!」
『『『ダダ漏れー』』』
思わずといった様子で、精霊達はツッコミを入れた。
(まあまあ、いいじゃないの。実際問題、お兄様のお傍以上に安全なところなんてないし)
グレイテール帝国最強の剣として知られていることを思い浮かべつて、プリシラは顔を上げる。
「そのお兄様のテントはどこに?」
「こっちだ!案内する!」
すっかり機嫌が直ったレクスは、クルリと身を翻す。
その際、短い黒髪がサラリと揺れた。
中でも、右側の一部────敢えて長くして、三つ編みにされたところが。
「あっ、待って。その前に────」
プリシラはおもむろに鞄の中へ手を突っ込み、セドリック達の方に向き直る。
「────預かっていた狼の素材、お返しします」
「は、はい!(危ない、すっかり忘れていた!)」
ビシッと背筋を伸ばし、セドリックは毛皮や牙を次々と受け取った。
が、さすがに一人では持ち切れないため他の騎士達にパスしていく。
「これで最後ですね」
大きな肉を手渡し、プリシラは鞄の口を閉じた。
「では、失礼します」
「ありがとうございました!」
勢いよく頭を下げるセドリックに、他の騎士達も続く。
そんな彼らを前に、プリシラは『どういたしまして』と軽く返事してレクスの元へ行った。
「あいつら、鍛え直した方がいいな。プリシラの力を借りるなど、情けない」
先程の会話から何があったのかおおよそ予想がついたようで、レクスは渋い顔をする。
その横で、プリシラは小さく首を横に振った。
「私から言ったことだよ、怒らないであげて」
あちらから乞われて仕方なく手伝ったならいざ知らず、今回はプリシラが押し切った形なのでレクスを宥める。
すると、彼は僅かに眉を顰めるものの……最終的に頷く。
「……分かった」
『すっごく嫌そー』
『自分より早くプリシラと会っただけじゃなく、気遣ってもらえたのが気に食わないんだろうねー』
『シスコンの嫉妬、やばーい』
『『『やばーい』』』
口元に手を当てて、精霊達は少し仰け反った。
(う〜ん……お兄様の場合、嫉妬というより悔しさだと思うけど。まあ、ちょっとご機嫌斜めなのは一緒か)
チラリとレクスの横顔を見やり、プリシラは後ろで手を組む。
「そうだ、お兄様の魔剣メンテナンスしてもいい?そろそろ、刃毀れとかしているでしょ?」
話題変更がてらそう提案し、プリシラはレクスの腰に差してある青い剣────氷剣を眺めた。
これはプリシラが初めて作った魔剣────魔法を放てる剣────であり、数ある作品の中でも渾身の出来だ。
たった一振りするだけで、身が凍るような冷気を放てるのだから。
「いいのか?是非頼む!」
先程までの仏頂面が嘘のように、レクスはニコニコと笑う。
早速氷剣を差し出してくる彼を前に、プリシラは鞄から別の剣を取り出した。
「メンテナンス中はこれを使ってね」
「おお!ありがとう!(これはまた見事な剣だな!付与などは何もないが、強度はかなりのもの!ちょっとやそっとじゃ、壊れない!変な癖もない素直な剣だし、代替品として使うのが申し訳ないくらいだ!)」
目をキラキラさせながら、レクスは剣を受け取る。
プリシラも氷剣を手にして、鞄の中へ収納した。
『久々の鍛治仕事、楽しみだな』と浮かれつつ、彼女はレクスと共に移動する。
「ここ!ここだ、俺のテントは!」
他のものより立派なテントを指さし、レクスはプリシラの方を向いた。
と同時に、彼女は鞄を両手で持つ。
「分かった。少し離れていて」
「おう!」
すかさず、一歩後ろに下がるレクス。
そんな彼と入れ替わるように、プリシラは前に出た。
「お家、出てきて〜」




