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遠出

◇◆◇◆


 ────バーラン王国の使者より結婚話を持ち込まれた翌日。

プリシラは早朝からヘイゼルに呼び出され、彼女の私室へ足を運んだ。

そこで一通の手紙を渡される。


「これは?」


「皇室からの要請書よ。青騎士団の遠征に合流するように、ってね」


 ソファに腰掛けて優雅に紅茶を飲み、ヘイゼルは向かい側の席に座るプリシラを見つめた。


「表向きの理由としては青騎士団のサポートのためとなっているけど、バーラン王国の接触を避けるのが目的。物理的に距離があれば、あちらも手を出しにくいでしょうからね。それに、たとえ遠征場所まで来て接触を図られても『職務中だから』とそつなく躱すことが出来るわ」


「へぇー(じゃあ、久々に公爵領の外に出られる(遠出出来る)のか。ちょっと得した気分)」


 受け取った手紙を眺め、プリシラはニコニコと機嫌良く笑う。

その傍で、精霊達が『良かったねー、プリシラ』とこれまたニコニコ笑った。


「それじゃあ、直ぐに準備して行ってくるね」


「ええ、くれぐれも気をつけてね(まあ、青騎士団にはウチの脳筋(・・・・・)も居るから問題ないでしょうけど)」


「うん」


 ルンルンでソファから立ち上がり、プリシラはヘイゼルの私室から出ていく。

そして、一旦自室に戻ると素早く身支度を整えた。

今回はあくまで青騎士団のサポートなので、動きやすい騎士服をチョイスだ。

また、髪型はポニーテールにしている。


「服よーし、髪型よーし、魔道具よーし!いざ、魔の森へ!」


 天井に向かって拳を振り上げ、プリシラは華麗にターンする。

その際、例の転移系の魔道具を発動させた。


「とーちゃく!」


『『『とーちゃく!』』』


 自室の光景とは似ても似つかない緑一色の空間を前に、プリシラと精霊達は満足気に微笑んだ。


「さてと、青騎士団はどこかな」


 魔の森は広大だ。なんせ、グレイテール帝国の約四分の一を占める規模なのだから。


『探してこようかー?』


『僕達のスピードなら、魔の森くらい一瞬で回れるよー』


『シュパパパパってねー』


 己の速さをアピールするように、一部の精霊はプリシラの周囲を高速で飛び回る。

自信があるだけあって、速い。とても速い。残像すら見えない。


「お願いしようかな」


『『『うん、まっかせといてー!』』』


 ポンッと自身の胸を叩き、一部の精霊は瞬く間に散開する。

が、三十秒と経たずに戻ってきた。


『『『見つけたよー!』』』


「ありがとう、お疲れ様。それで、どこに居るの?」


『『『あっちー!』』』


 一斉に右斜め前方を指さす精霊達。


『今ねー、交戦中だよー!』


『相手は狼の魔物ー!』


『しかも、群れだからちょっと時間が掛かりそー!』


「そっか。じゃあ、のんびり行こうか」


 直ぐに移動する心配がないと知り、プリシラはゆっくりと歩き出した。

すると、捜索を引き受けていた一部の精霊が先導する。

────間もなくして、少し開けた場所に出た。


「ちょうど、戦闘が終わったところみたい?」


 真っ赤な地面と血の匂い、それから狼の死骸を見やり、プリシラは『ナイスタイミング』と呟く。

と同時に、騎士達が彼女の方を向いて剣を構えた。


「何者だ……!?」


 ここは野生の魔物が、多く生息する魔の森。

無限に魔物を生成するダンジョンとも引けを取らない危険度で、冒険者も度々やってくる。

故に、人間相手であっても気を抜けない。

戦闘後の疲弊したところに奇襲を掛け、成果物を奪い取る……なんてことも、珍しくないからだ。

まあ、国がバックについている騎士団を襲う愚か者はそうそう居ないだろうが。


「プリシラ・ニーナ・レーヴェンです。皇帝陛下の要請で、青騎士団の遠征に加わることになりました」


 例の鞄から手紙を取り出し、プリシラは相手に見せる。

その瞬間、騎士達は一斉に剣を下ろし、跪いた。


「大変失礼しました……!まさか、プリシラ様とは……!(この手紙は間違いなく、本物……!それに、団長(・・)より聞いていたプリシラ様の特徴と一致する……!)」


 この場を代表としてベテラン騎士のセドリック・カーター・クラム伯爵が、謝罪した。

『よりによって、この方に剣を向けるなど……!』と猛省する彼を前に、プリシラは片手を上げる。


「立ってください。そこまで畏まる必要はありません(こっちの事情で、遠征に参加する訳だし。むしろ、頭を下げなきゃいけないのは私だよね)」


「はっ」


 セドリックは短く返事すると、俊敏な動きで立ち上がる。

それに倣って、他の騎士達も起立した。


「では、我々の拠点(キャンプ)までご案内します」


「えっ?魔物の解体は?」


 野生の魔物は基本、光の粒子に……ドロップアイテムに変わらない。

あれはダンジョン独自の仕様だから。

そのため、自ら解体作業を行い、素材を採取する必要があった。


「今回はやめておきます(それよりも、プリシラ様の護衛だ)」


「そんな……勿体ない!」


 せっかくの素材を放置するなど有り得ないので、プリシラは急いで鞄からシートを取り出す。


「これ貸しますから、ちゃんと解体して持って帰りましょう!」

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