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威嚇と牽制

 どうにか結婚話を取り付けようと必死なアネーロを前に、ヘイゼルは決して首を縦に振らない。


「申し訳ありませんが、それは出来ません。もし、どうしても面会したのならまずグレイテール皇室に話を通してください」


「(それだと、時間が掛かりすぎる……!何より、グレイテール皇室が許可する筈ない!)何故そこでグレイテール皇室の名前が、出てくるんです!?プリシラ嬢はあくまでレーヴェン公爵家の者でしょう!?貴方が許可すれば、済む話……!」


「今回ばかりは、そういう訳にもいきませんわ。貴方がバーラン王国の使者として参っている以上、国同士の話になりますからグレイテール皇室にお伺いを立てておく必要があります」


「でしたら、私が個人的に面会するということで……!」


 まだ食い下がってくるアネーロは、チラリと扉の方を見る。


(『もういっそのこと、自分で探しに行くか』とでも考えていそうね。全く……とんでもない人だわ。どの道プリシラは居ないと言えど、さすがに度が過ぎている)


 若干腰が浮いているアネーロを前に、ヘイゼルはついに我慢の限界を迎えた。


「いい加減にしてくださいませ。無理なものは、無理です」


 言外に『しつこい』と切り捨て、ヘイゼルは扇で口元を覆った。

不愉快だと言葉でも態度でも示す彼女を前に、アネーロは一気に表情を険しくする。


「なんだと……!?下手(したて)に出てやったら、調子に乗りおって……!全くもって、無礼な!これだから、女はダメなんだ!」


(無礼なのは、どっちよ。使者とはいえ、たかが子爵風情が偉そうに)


「今日のことはしっかりバーラン王室に報告するからな!貿易停止に発展しても、私は知らないぞ!全てそちらの撒いた種だ!恨むなら、自分を恨むといい!」


(貿易停止、ね。正直、ほとんど困らないわね。バーラン王国と取り引きしているのは、主に食料関係だから。精霊のおかげで土地が豊かになっているこちらとしては、あちらの作物を輸入出来なくても自分達で作れるし、作るもの全て質がいいからバーラン王国に輸出する筈だった分くらいは他国に買い取ってもらえる。諸々の手続きのため多少の手間はあるけど、それだけ)


 内心肩を竦め、ヘイゼルは真っ直ぐ前を見据える。

『愛する娘のためなら、そのくらい痛くも痒くもない』と思いながら。


「ええ、どうぞお好きになさってください」


「!?」


 平然と返されたことに驚いたのか、アネーロは大きく瞳を揺らした。

かと思えば、悔しそうにこう言う。


「せ、戦争にだってなるかもしれない!」


(戦争……恐らく苦し紛れの一言、もしくは負け惜しみなんだろうけど、もし現実になったらさすがに困るわね)


 貿易停止とは比にならないほどの変化を及ぼすため、ヘイゼルは少しばかり表情を硬くした。


「────メラハ王国の悪夢(・・・・・・・・)。あれの再演をお望みですか?」


 威嚇と牽制の意味を込めて、ヘイゼルは過去の出来事を持ち出す。

その途端、アネーロは明らかに顔色が悪くなった。


「お、脅しのつもりか……!」


「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ(貿易停止やら戦争やら言っている貴方にだけは、言われたくない)」


「っ……!論点をすり替えるな!私は今、貴方の話を……」


「では、お答えしましょう────ええ、脅しています。戦争は極力、避けたいので。少しでも思い留まる要因になれば、と」


 パンッと扇を閉じ、ヘイゼルは居住まいを正す。


「ただ、これは単なる脅しではありません。実現可能な未来であることを、お忘れなきよう」


 虚勢や強がりじゃないことを主張し、ヘイゼルはどこか物々しい雰囲気を放った。

と同時に、アネーロは竦み上がる。


「(くっ……!この女、なんという威圧感だ……!)そにょ……そのような言葉に屈する我々だと思うな!だが、我が王は優しいお方だからな!暴力的なことは好まない!故に、戦争までは恐らく発展しないだろう!有り難く思え!」


 最後の最後で怯んだのか、アネーロは予防線を張った。

震える手を隠すように握り込み、彼は勢いよく席を立つ。


「とりあえず、今日のところはこれで失礼する!」


 『気分が悪い!』と吐き捨て、アネーロは扉の方に進んでいく。

それも、わざとらしく足音を立てて。


(うるさいわね。『怒っている』というアピールのつもりなんでしょうけど、本当に品がない。バーラン王国も落ちたものね、こんな人が使者だなんて)


 漏れ出そうになる溜め息を押し殺し、ヘイゼルはアネーロの背中を眺める。

本来であれば彼女も立って玄関先まで見送るべきなんだが、とてもそんな気にはなれないようだ。

『ここで下手に礼儀を尽くしても、侮られそうだし』と思案するヘイゼルを前に、アネーロは廊下に出る。

その際、『何故、ついてこない!?』とでも言うように彼女を睨みつけるものの……大人しく、立ち去った。


(さて、夫と皇室に連絡を入れないとね。でも、その前に────)


 テーブルの上に円柱型の置き物を手に取り、ヘイゼルは底のボタンを押す。

カチッという音と共に少し光るソレを前に、彼女はふと窓の方を見た。


「────プリシラは一体、どこに行ったのかしら?」

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