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ポーション

「な、治っている……?何で……?それに、なんか口の中が甘い(・・・・・・)んだけど……?」


 今更ながら口内の異変に気づき、怪我人の女性は目を白黒させる。

そっと口元に手を当てる彼女の前で、プリシラは頬杖をついた。


「何の味か、分かる?」


「ぷ、プリシラ様……!?」


 ようやくプリシラの存在に気づいた怪我人の女性は、あわあわする。


「(もしかして、私が助かったのはプリシラ様のおかげ?じゃあ、この後味はポーションの……)えっと……オレンジ味ですかね」


 今一度よく味わってから答える怪我人の女性に、プリシラは頬を緩める。


「当たり。改良は成功したみたいだね(ポーションの効能を落とすことなく味だけ変えるのは大変だったけど、これでかなり飲みやすくなった。今後は体調を崩しても、安心)」


 ポーションの味が酷すぎて、いつも限界になるまで飲まなかったプリシラ。

そのせいでよく家族に叱られていたため、改良に踏み切ったという背景がある。


「(オレンジ味のポーションか……プリシラ様はまた凄いのか、凄くないのかよく分からないものを作っているな)」


 相手側の一人が、感心したような……でも、ちょっと呆れたような表情を浮かべた。

────と、ここでプリシラが立ち上がる。


「じゃあ、私はこれで」


「あっ、はい!今回は本当にありがとうございました!」


「このご恩は一生忘れません!」


「プリシラ様のおかげで助かったこの命、大事にします!」


「どうぞ、お気をつけて!」


 深々と頭を下げて、相手側は感謝の意を露わにした。

そんな彼らを前に、プリシラは『またね』と手を振って歩き出す。

────その後、何事もなく第10階層まで到達し、無事に帰還した。

だが、ここで問題発生。


「プリシラ〜?」


 帰宅早々、プリシラの母であるヘイゼル・ハンナ・レーヴェン公爵夫人に詰め寄られる。

『あー……』と視線を逸らすプリシラを前に、ヘイゼルはズイッと顔を近づけた。


「いつも、言っているわよね?どこかに行くときは一声掛けなさい、と。いくら、貴方が魔道具で完全武装していようと、精霊の愛し子だろうと常に安全とは限らないんだから」


「はい、ごめんなさい」


 素直に謝罪し、プリシラは見えない尻尾をシュンと垂らす。

すると、ヘイゼルは一つ息を吐いた。


「仕方ないわね。反省しているようだし、許してあげるわ(プリシラのこの顔には、弱いのよね)」


 態度や表情を軟化させ、ヘイゼルはゆっくりと身を起こす。

その際、お団子にした茶髪が少し揺れた。


「それに、今回は外出していて正解だったかもしれないから」


 どこか含みのある言い方をして、ヘイゼルは緑の瞳に憂いを滲ませる。


「実はね────先程、バーラン王国の使者が来て……プリシラをヒュドール・ブラオ・バーラン国王陛下の第三側妃にしたい、と要求してきたのよ」


『『『はぁ〜〜〜!!?』』』


 真っ先に反応を示したのは精霊達で、全員眉根を寄せていた。


『あの国の王様って、確か六十七歳だったよねー!?』


『親子どころか、祖父と孫くらい年齢が離れているじゃーん!』


『そんなやつに僕達のプリシラは渡さないよー!』


『ぶっ潰ーす!』


 敵意を剥き出しにして、精霊達はバーラン王国のある方向を見た。

今にでも飛び出して行きそうな面々を前に、プリシラは両手を横に振る。


「まあまあ、落ち着いて────お母様、断ってくれたんでしょう?」


 後半はヘイゼルに向けて言うと、彼女は大きく頷く。


「ええ、もちろん(やっぱり、精霊達は憤慨しているみたいね。詳しいことは伏せておいた方が、良さそう)」


 プリシラの言動から精霊の反応を予測し、ヘイゼルは内心溜め息を零した。

ありのままを話したら間違いなく大変なことになる、と確信して。


「ただ、あちらはまだ諦めていないかもしれないのよね(はぁ……何でこういうときに限って、ウチの男手達は家を空けているのかしら)」


 遠征やらなんやらで直ぐに帰ってこれないことを思い浮かべ、ヘイゼルは僅かに表情を曇らせる。


「とりあえず、夫と皇室には連絡しておいたから何か対処はしてくれると思うわ。でも、しばらくは警戒してちょうだいね」


「分かった。ありがとう、お母様」


『『『え〜〜〜!?警戒だけ〜〜〜!?』』』


 すんなり応じるプリシラと違い、精霊達は不満そうだ。


『今すぐ、その使者(?)やっちゃおうよー』


『ついでに、バーラン王国の王族もー』


『あと、貴族もねー』


『皆、れんたいせきにーん!』


 結局バーラン王国を滅ぼす方向に話を進めようとする精霊達に対し、プリシラは待ったを掛ける。


「私のために怒ってくれるのは嬉しいけど、一旦様子を見よう?まだ結婚の話を持ってきただけで、何か不利益を被った訳じゃないし」


『『『う〜ん……プリシラが、そう言うなら』』』


 若干不服そうではあるものの、精霊達は一先ず怒りを収めた。

おもむろに視線を前に戻す彼らの前で、プリシラはクルリと身を翻す。


「じゃあ、次はブドウ味のポーションを作りましょ」


『『『はーい』』』


 片手を上げて返事し、精霊達はプリシラのあとに続いた。

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