ヒュドールの狙い
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────一方、その頃のバーラン王国はと言うと……
「ようやくだ、ようやくプリシラ・ニーナ・レーヴェンが手に入る」
ヒュドールは愉悦していた。
何を隠そう、あの黒い服装の者達を手配したのは彼だから。
無論、正式に決定した上で行っている訳ではない。
完全なるヒュドールの独断だ。
なかなかエンドレ達から同意を得られず、痺れを切らしたというのが経緯。
「きちんと結果を出せば、エンドレらも認めざるを得んだろう。くっくっくっ」
王城の私室で一人笑みを漏らし、ヒュドールは計画の成功を信じて疑わない。
(予定通りなら、プリシラ・ニーナ・レーヴェンは国境を渡っている頃か。順調に行けば、二週間ほどで相見える筈。そしたら、直ぐに不老不死の薬を作らせるつもりだ。余の永遠のために)
ヒュドールがプリシラを求めたそもそもの発端、それは────自分の寿命。
特に病を患っている訳でも、深刻な怪我を負っている訳でもない。
ただ、ある日ふと己の限界……肉体の衰えを自覚し、切実に『死にたくない』と願ったまで。
生き物として普通のことだが、なまじ権力と行動力を持っている分ヒュドールはちょっと厄介だ。
国王の権限を最大限利用して、色々試したり調べたり出来るのだから。
それで、行き着いた結論が────幻の秘薬と呼ばれる不老不死の薬。
もちろん、常人では作れない。
だが、錬金術師のプリシラなら?
────ということで、ヒュドールは何とか彼女を引き込もうとしているのだ。
物が物だけに、普通に依頼してもグレイテール皇室やレーヴェン公爵家に弾かれるし、万が一許可されてもあちらに借りを作る形となりバーラン王国の立場が弱くなるので。
結婚でもして完全に身内にしてしまうのが一番手っ取り早いのだが、それはアネーロのせいで頓挫している。
まあ、あんな愚か者を使者として送り出したヒュドールの自業自得だろう。
有能な貴族達から尽く使者に立つことを断られたとはいえ、あれはない。
「永遠の命を手に入れたら、まずは何をしようか。せっかくプリシラ・ニーナ・レーヴェンが居るのだから、兵器を作らせて世界征服するのも良いかもしれんな。いや、その前にうるさい貴族共の粛清か」
呵々と笑い、ヒュドールは豪華なソファの上で酒を煽る。
すっかりいい気分になっている彼を前に────
『『『はい、アウトー!』』』
────精霊達はジャッジを下した。
実は先程から、様子を窺っていたのだ。
『はい、お仕置き、お仕置き、お仕置きー!』
『何するー?どうするー?早速、やっちゃーう?』
『いや、共犯者を探すのが先でしょー!さすがにこいつだけじゃ、ないと思うしー!』
『じゃあ、こいつの頭覗いて確認しよー!』
『『『いいねー!』』』
ヒュドールの頭上にワラワラと集まり、精霊達は何かを薙ぎ払うような動作をする。
その瞬間、ヒュドールの周りに長方形のプレートがいくつも現れ、彼の記憶を映し出した。
「っ……!?な、なんだ……!?」
ヒュドールの目には精霊達もプレートも見えていないものの、記憶を再生すると自動的に彼もその頃のことを思い出すらしく困惑する。
当然だ、各プレートごとに再生される記憶が違うのだから。
突然様々な過去が甦る、という意味不明な状態。
(何かの魔法か……!?だが、ここには余しか……!くっ……!)
急に色々思い出した影響か、ヒュドールは頭痛を覚える。
────と、ここで精霊達が記憶の再生をやめ、プレートを消した。
『う〜ん……思ったより、少なかったねー』
『貴族はほぼ0ー?実行犯と仲介の人達が、ちょっとたくさん?』
『細かいやつを合わせても、三桁までは行かないねー』
『物足りないけど、しょうがないかー』
ガッカリしながらも、割り切る精霊達。
『とりあえずー、こいつをケチョンケチョンにして他の人間達にお仕置きしよー』
『『『うん、そうしよー!』』』
明るく笑ってヒュドールを見下ろし、精霊達はクルクルと人差し指を回す。
『まずは、五感を奪おー!』
『ダメダメー!それじゃあ、痛みや苦しみも感じられなくなっちゃうじゃーん!』
『そういうのは、他の共犯者にしよー!』
『加担具合によって、奪う感覚の数と日数を調整する形でさー!』
『『『さんせー!』』』
先に共犯者の罰が決まる中、ヒュドールは困惑を露わにする。
(記憶の再生が収まったかと思えば、今度はなんだ……!?)
一瞬であるものの、実際に五感を奪われていたヒュドール。
あっという間に酔いも醒め、彼はキョロキョロと辺りを見回した。
と同時に、精霊達が声を張り上げる。
『とりあえず、こっちは血液を熱湯に変えてー!』
『気力や体力を吸って、成長する蔓を皮膚に生やしてー!』
『光に当たれば、体がポロポロと崩れ落ちー!』
『闇に潜めば、眠りと悪夢に誘ーう!』
「ぐぁっ……!?」
全身を駆け巡る熱と焼け爛れる皮膚、体のあちこちから現れた蔓、崩れる指先。
ヒュドールは堪らず酒の入ったグラスを落とし、顔を歪めた。




