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精霊出動

「で、これが魔物除けの香。割れると中から液体が出るんだけど、ちょっと臭い(・・・・・・)の。あくまで、人間的にはね。嗅覚の優れた魔物にとっては、耐え難いレベルだと思う。だから、余程のことがなければ逃げ出す筈」


 作ったものの説明に入り、プリシラは薄いガラスの容器を一瞥した。


「こっちは理性戻しの音色。触れながら『発動』と唱えると、特殊な音を発するの。それで、精神状態を正常に戻すことが出来る。ちなみに今回のやつは魔物や動物(耳のいい生物)にしか聞こえないから、人間には効かないよ」


 鉄の箱を見つめ、プリシラは顎に手を当てる。


「どちらも治験や動作確認はしていないけど、人間には無害となるよう有害な素材を避けたり効果を限定したりしているから最悪暴発しても大丈夫」


「分かった。ありがとう、プリシラ。これらも、有効活用させてもらう」


 薄いガラスの容器と鉄の箱をそれぞれ手に取り、レクスは少しばかり表情を和らげた。

『うん』と小さく頷くプリシラを前に、彼は他の騎士達の方へ向き直る。


「理性戻しの音色で魔物達を正気に戻してから、魔物除けの香で追い払え。追撃はするな。ただし、その場に留まる個体については各個撃破を」


「「「はっ」」」


 胸元に手を添えて返事し、他の騎士達はレクスの手から薄いガラスの容器と鉄の箱を受け取る。

それはもう丁寧に、捧げ持つように。


「(ぷ、プリシラ様のお作りになったものが今手に……)」


「(絶対に……絶対に落とさないようにしなくては)」


「(壊したら、首が飛ぶ……物理的に)」


 どこか戦々恐々としつつ、他の騎士達はテントの外に移動した。

────その後、二十分ほどでスタンビートは収まる。

どうやら、プリシラの作ったものが功を奏したようだ。


『死者0だってー』


『怪我人も、実質0だよー』


『プリシラのポーションで治っているからねー』


「そう。良かった」


 あのあとすぐ家に戻っていたプリシラは、精霊達の報告を聞いて一息つく。


(なんか安心したら、眠くなってきたな……今日はもう寝ようかしら)


 小さく欠伸をして、プリシラは寝室の方に向かった。

そして、大人しく就寝した翌日。


「────プリシラの予想通り、あの黒い服装の奴らはスタンビートで騎士達がてんやわんやしているところにプリシラを攫う計画だったらしい」


 レクスが朝早くから訪ねてきて、尋問の結果を報告する。


「ただ、あいつらも依頼者は誰か知らないようだ(まあ、十中八九────)」


「────バーラン王国だよね、多分」


 敢えて言わなかったであろう部分を口に出し、プリシラはホットミルクを飲む。

すると、向かい側の席に座るレクスが軽く前髪を掻き上げた。


「(さすがに気づくか……)ああ、俺もそう考えている。けど、確証はない。ついでに言うと、どれだけ探りを入れても尻尾は掴めないと思う。証拠を残さないように色々経由して、依頼している筈だからな(本当、小賢しいことこの上ない……!もういっそ、大義名分とか気にせずバーラン王国を攻め落とすか……!?)」


 相変わらず、脳筋……というか、物騒な思考回路の持ち主レクス。

プリシラ(愛する妹)のことになると、余計に。


「そっか────ねぇ、精霊さん達」


 ホットミルクの入ったカップをテーブルに置き、プリシラは少し視線を上げた。

すると、精霊達が羽根をパタパタ動かして集まってくる。


『なーにー?頼み事ー?』


『バーラン王国の件ー?』


『やっぱり、消すことにしたのー?』


『なら、今から行ってくるよー!』


 腕捲りするような動作をして気合い充分な精霊達に、プリシラはこう答える。


「えっとね、バーラン王国の件なのは正解。ただ、消すのはダメ」


『『『えぇー』』』


 口を尖らせたり肩を落としたりして、不満を露わにする精霊達。

先程までのやる気が、嘘のよう。


「ごめんね、さすがに国ごと消したら無関係の人にも影響が出るから」


 賛成出来ない理由を話し、プリシラはテーブルの上で手を組んだ。


「それでね、今回お願いしたのは主に二つなの。一つは確定で、もう一つは状況次第でって感じ」


『『『んー?じょーきょーしだーい?』』』


「うん。昨日の騒ぎ……スタンビートの黒幕がバーラン王国の上層部なら、その人達に制裁を与えてほしいの」


『『『なるほどー!』』』


 パッと表情を明るくして、精霊達は身を乗り出す。


『じゃあ、一つ目のお願いは黒幕のちょーさ?』


「大正解」


『やったー!じゃあ、今から行ってくるよー!』


『僕も、僕もー!』


『久々に大暴れしちゃうよー!』


 再び腕捲りするような動作をして、精霊達は気合いを入れた。

かと思えば、一斉にバーラン王国のある方向へ飛んでいく。

もちろん、プリシラの護衛として半数は残した上で。


「行ってらっしゃい。気をつけてね」


 小さく手を振って送り出し、プリシラはスッと目を細めた。

その傍で、レクスは腕を組む。


「(なんかよく分からんが、精霊達が動き出したみたいだな。なら、俺の出る幕はなさそうだ。きっと、とんでもなく苛烈でユニークな仕返しをしてくれる筈)」


 静かに様子を見守っていたレクスは、何となく成り行きを察してうんうんと満足そうに頷いた。

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