時間との戦い
(相手の目的は一体、何かしら?青騎士団の戦力削減?もしくは、私怨とか……う〜ん、しっくり来ない。タイミングが微妙すぎる)
青騎士団の戦力を削るなら、もっと早く……魔物の間引きが進む前に、ことを起こす筈だ。
私怨の場合も、同様。
相手の目的を推し量れずに居るプリシラの前で、精霊の一人が口を開く。
『どれもまだ効果が続いているけど、どうするー?壊すー?』
「そうね、壊した上で全て回収してくれると助かるかな」
『『『おっけー!』』』
拳を突き上げて快諾し、精霊達は再びこの場を去った。
それから、五分ほどして帰ってくる。
先程より、時間が掛かったのは破壊と回収に少し手間取ったからだろう。
「ありがとう、精霊さん達」
『『『どういたしましてー!』』』
プリシラの役に立てて、ご満悦の精霊達。
(とりあえず、これで元は絶った。けれど、一度暴走した魔物はそう簡単に退かない。殲滅するか、あるいは魔物除けと理性戻しの魔道具や魔法薬────魔力を込めて作られた薬でも使わない限り)
テーブルの上に並べられたオレンジの玉(魔物寄せの魔道具)と黄緑色の玉(魔物狂わせの魔道具)を一瞥し、プリシラは顔を上げた。
「ここからは、時間との戦いだね」
半ば自分に言い聞かせるようにして呟き、プリシラは鞄から様々な器具を取り出す。
それらをテーブルの上に広げ、吟味した。
「今回はわりと広範囲になるから、魔法薬より魔道具の方が使い勝手はいい。とはいえ、あまり大掛かりなものだと時間が掛かる。だから、少し趣向を変えないと」
鉄製の板と赤い棒(先端から高熱のレーザーを放つ魔道具)を手に取り、プリシラは早速作業を開始する。
スイスイと慣れた手つきで回路を描く彼女の前で、精霊達は身を乗り出す。
『『『プリシラ、何かやることあるー?』』』
「じゃあ、鉄を溶かしておいてもらえる?」
テーブルの上にある鉄の塊を指さすプリシラ。
精霊達はいつものように快諾し、指示通りに動く。
(回路はこれでいいかな)
あみだくじのような線がたくさん刻まれた鉄製の板を前に、プリシラは赤い棒を置く。
続いて、精霊達の溶かした鉄を加工しようと鍛治のときに使った手袋を装着した。
「もういいよ。ありがとう、精霊さん達」
『『『どういたしましてー。次は何するー?』』』
「試験管にお湯を入れて、あの薬草を灰にして、そこのハーブを細かく切り刻んでほしい」
『『『りょーかーい』』』
矢継ぎ早に頼まれた複数の指示に、精霊達は嫌な顔一つせず応じる。
手分けしてことに当たる彼らをよそに、プリシラはグニャグニャの鉄を四角い箱に整形した。
そして、内側の底にさっき作った鉄製の板を貼り付ける。
「誰か、これを冷ましてくれる?」
『はーい』
精霊の一人が手を上げ、フーッと鉄の箱に息を吹き掛けた。
その途端、ジュワ〜ッと白い煙が上がって、鉄の冷却……もとい、造形の固定化が完了した。
「ありがとう。これで、直ぐに次の作業へ行ける」
手袋の効果を駆使しながら細かい凹凸を整え、プリシラは再び赤い棒を手に持つ。
今度は箱の内側に回路を描くために。
(先に描いたやつと繋がるように計算して、っと)
注意事項を念頭に起きつつ、プリシラは素早く回路を描き上げた。
と同時に、精霊達へ頼んだ作業も終わる。
(一旦、こっちは置いておいてあっちを進めようか。こういう調合系は鮮度が大事だから)
鉄の箱を一瞥し、プリシラは灰になった薬草と細かく切り刻まれたハーブを同じ皿に移した。
かと思えば、すりこぎでゴリゴリと混ぜる。
その際、魔力を流すことも忘れずに。
「うんうん、いい感じ」
しっかり一体化されていることを確認し、プリシラは皿の中身を試験管(熱湯入り)に入れた。
その瞬間、液体は真っ赤に染まり、シュワシュワと泡が吹き出る。
が、零れる寸前で収まり、徐々に静まっていった。
『んー?なんか、臭いー?』
『酸っぱくて、ちょっと鼻の奥がツンとするようなー?』
『もしかして、この臭いで魔物を追い払うのー?』
「うん、そうだよ」
すっかり泡の消えた液体を見つめ、プリシラは薄いガラスの容器に移し替える。
しっかり蓋をして密閉する彼女を前に、精霊の一人が頭を捻った。
『なら、もっと臭いを濃くした方がいいんじゃなーい?』
「それだと、味方にも影響が出るからダメなの。何より、嗅覚の優れた魔物にはこれで充分」
出来上がったものを鞄の中に収納し、プリシラは制作途中だった鉄の箱に向き直る。
その刹那────遠吠えや雄叫び、何かのぶつかり合う音が響き渡った。
「(ついに魔物の群れと青騎士団の戦闘が、始まったみたい)急がないと」




