魔物の群れ
◇◆◇◆
────リアの一件から、約二ヶ月。
プリシラはブドウ味のポーションを完成させたり、ドッキリ魔道具を作り上げたりと自由に過ごしていた。
正直、ほぼ公爵家に居たときと変わらない生活である。
「さてと、今日は何をしようかな〜」
『『『しようかなー』』』
プリシラの真似をして、ニコニコする精霊達。
だが、不意に笑みを引っ込めた。
『なんか、騒がしー』
『魔の森、へーん』
『魔物の群れ、こっちに向かってきてるー』
「えっ?それって、一大事じゃない?」
世論や常識に疎いプリシラでも、魔物の群れがこちらに……魔の森の外に来るのは、危険だと分かる。
なので、慌てて会議用のテントに向かい、精霊達の話を報告した。
「なるほど。つまり、スタンビートが起きているんだな」
────スタンビートとは、野生・ダンジョン問わず、魔物が己の生息区域を出て大量に人里へやってくることだ。
主な原因は魔物が増え過ぎたこと。
「でも、おかしいな……ここ数ヶ月で、大分魔物の数は減らした筈」
レクス率いる青騎士団はスタンビートなど魔物による被害を抑えるため、今回間引きを行っていた。
だから、どうにも辻褄が合わないのだ。
「他に考えられる要因は二つか」
難しい顔つきで魔の森がある方向を見やり、レクスは腕を組む。
「とんでもなく強い魔物が現れて、元居た者達が住処を追われたか────魔物寄せの魔道具や薬を使い、人為的に魔物を誘導したか」
「「「!」」」
驚いたような表情を浮かべるプリシラと、眉間に皺を寄せる隊長格の騎士達。
この場に張り詰めた空気が流れる中、レクスは一つ息を吐く。
「(いや、今は原因を探るよりもどうやって対処するか考えるべきだな)プリシラ、あとどのくらいで魔物の群れが魔の森を抜けるのか分かるか?」
「えっと────」
チラリと精霊達の方に視線を向け、プリシラは回答を求めた。
すると、彼らは少し考えるような素振りを見せたあとにこう答える。
『『『あと、四十分くらーい!』』』
「あと、四十分くらいだよ」
「そうか。ありがとう(思ったより、時間がないな)」
ポンポンッと優しくプリシラの頭を撫で、レクスは不意に隊長格の騎士達へ目を向けた。
「お前達、早急に迎撃の準備を整えろ。近くの街や皇室に連絡するのも、忘れるな」
「「「はっ」」」
即座に騎士の礼を取って応じ、隊長格の騎士達は動き出す。
一気に騒がしくなるテント内外を前に、レクスはプリシラの方へ向き直った。
「プリシラは先に安全な場所へ避難していてくれ(完全武装かつ精霊の愛し子であるプリシラなら大丈夫だと思うが、念のためな)」
人為的スタンビートの可能性がある以上、万が一を考えて行動する必要がある。
だが、プリシラは────
「ううん、私も出来る範囲で力になるよ」
────首を横に振った。
その途端、レクスは表情を硬くする。
「プリシラ」
「居ても全く役に立たないなら大人しく避難するけど、私達はきっと役に立てる。それに、私は一応『青騎士団の遠征に合流』という名目で来ているんだよ?なら、今回のスタンビートに立ち向かう義務があると思う」
「だが……」
「本当に危なくなったら、直ぐに逃げるから。ねっ?お願い」
両手を合わせて、頼み込むプリシラ。
(私だって、お兄様や青騎士団の人達が心配なんだよ。特に、今回は通常のスタンビートじゃないみたいだし)
どうにも不安を捨て切れないプリシラの前で、レクスは首裏に手を回した。
「(正直賛同したくはないが、プリシラの言い分にも一理あるか……)分かった。ただし、ちゃんと自分の安全を第一に動くんだぞ」
「ええ。ありがとう、お兄様」
少しばかり表情を和らげ、プリシラは金の瞳に安堵を滲ませる。
「とりあえず、これ渡しておくね」
鞄からブドウ味のポーション作りで出た失敗作(ただし、効能に問題はなし)を複数取り出し、提供した。
それで手を止めるかと思いきや、プリシラはまた鞄を漁る。
「あと、これとこれとこれも」
赤い玉(割れると、爆発する)と、青い笛(吹いている間、雨が降り、使用者の敵には寒さを・味方には体力回復の効果を与える)と、羽付きの靴(跳躍力が上がる)をテーブルの上に出した。
もちろん、それぞれ複数個ある。
「ありがとう、プリシラ。有効活用させてもらう」
「うん。じゃあ、私は家に戻るね」
「ああ(家には結界があるから、ここに居るより安全だろう)」
「お兄様、ご武運を」
無事に生還することを心から願い、プリシラは例の腕時計で家に転移した。
普通に歩いて戻るとなると、護衛が必要になりレクスや他の騎士達の手を煩わせてしまうため。
(さて、ここからどうしようかしら?)
出来ることがそれなりに多い分、プリシラは判断を迷う。
「(もう少し情報が、欲しいな)ねぇ、精霊さん。スタンビートの原因を調べてもらうことって、出来る?」
『『『出来るよー』』』
「なら、お願いしてもいい?」
『『『いいよー』』』
いつもの如く二つ返事で了承し、精霊達はこの場を後にした。
かと思えば、直ぐさま戻ってくる。
『あのねー、魔物を引き寄せる玉(?)が魔の森の手前側に十五個くらい置いてあったー』
『しかもねー、魔物の理性を失わせる玉(?)もあちこちにあったよー』
(なるほど。じゃあ、人為的スタンビートで決まりだね)
精霊達の語る玉が魔道具であると狙いをつけ、プリシラはスッと目を細めた。




