怒らせたら怖い人
「ぐっ……!せ、せめて返事くらい聞かせてくれてもいいだろう!それとも、何か?君達は錬金術師の会話を遮るというのか!」
リアは苦し紛れにそんなことを言った。
実質、会話はしていないというのに。
だが、他の騎士達は途中参戦であるが故に詳しい経緯を知らないため躊躇する。
困ったようにプリシラの方を振り返る彼らの前で、セドリックは慌てて口を開こうとした。
が、それよりも早くプリシラが言葉を紡ぐ。
「えっと、普通に嫌ですけど」
ここはハッキリ断っておいた方がいいだろうという思いもあり、プリシラは拒絶の意思をきちんと示した。
と同時に、リアは目を剥く。
「(即答……!?しかも、『嫌』ってなんだよ!?)り、理由は……!?」
「気分じゃないから?」
「はぁぁぁあああ!?」
思わずといった様子で大声を上げるリアに対し、精霊達は顔を顰めた。
『うるさーい!消すー?』
『態度も悪いしー!消すー?』
『顔もなんかムカつくー!消すー?』
「(顔は生まれつきのものだから、許してあげて。あと、消すのはなし)」
小さく首を横に振って、プリシラは精霊達を止めた。
現時点では、ただ依頼をしに来ただけなので。
態度や物言いはちょっとアレだが。
(こんなのいちいち消していたら、キリがないよ)
これまで幾度となく、『〇〇を作ってくれ』と泣きつかれたり脅されたりしてきたプリシラ。
最近はメラハ王国の悪夢など、いい見せしめ……歴史があるためかなり減っているものの、それでも0じゃない。
「いやいや、有り得ないだろ!それだけの腕前があって、『気分じゃないから』って断るなんて!貴方が力を惜しまなければ、一体どれだけの恩恵が齎されると……」
「いい加減にしろ!!!」
額に青筋を浮かべ、セドリックはついに剣の柄へ手を掛けた。
その刹那────
「一体、何の騒ぎだ」
────恐ろしいほど無表情のレクスが、姿を現す。
途端に、セドリックや他の騎士達は竦み上がった。
「「「(ま、不味い……!かなり怒っている……!)」」」
プリシラを困らせるというレクスの地雷を見事に踏み抜いているため、大変機嫌が悪かった。
ここで青騎士団の教訓を一つ披露しよう。
────団長は異様に静かなときが、一番ヤバい。
「も、申し訳ありません……!プリシラ様を送っていく途中、リアがテントの陰から飛び出してきて『武器を作ってほしい』と宣い……!現在進行形で、対処していたところです!」
この場を代表して、セドリックが事情説明を行った。
すると、レクスはリアの方にゆっくりと視線を向ける。
「またお前か。先日同期を殺しかけてその反省をするどころか、俺の妹に武器の依頼だと?ふざけているのか?」
決して声を荒らげることなく淡々と話しているものの、金の瞳には確かな怒りが宿っている。
(同期を殺しかけた?この人、そんなにやばいの?)
チラリとリアを見て、プリシラは僅かに表情を硬くした。
セドリックや他の騎士達が異様に焦っていた理由を理解する中、レクスが一歩前に出た。
「先日の一件だけなら騎士団内でことを収めるつもりだったが、気が変わった────カルム皇帝陛下にきちんと裁いてもらうことにしよう」
「!」
リアはピクッと僅かに反応を示し、口元に力を入れた。
かなり動揺しているのか異様にキョロキョロしている彼を前に、レクスは淡々と追い打ちを掛ける。
「そうなれば、当然オリエンス子爵家もただでは済まないが。まあ、自業自得だな」
「そ、そんなの横暴だ……!確かに接触不可という命令に背いたのは悪かったと思うが、僕はただ強くなるために……!」
「どんなにいい武器を持っていても、使用者のお前自身が強くなければ無意味だろう」
「僕は既に強い!あとは、ちゃんとした武器さえあれば……!」
ムキになって言い返すリアに対し、レクスは冷ややかな目を向けた。
「武器の性能に左右される程度の実力なら、強いとは言えないだろう」
「なっ……!?(言わせておけば……!)そういう貴方はどうなんだ!?錬金術師が作った剣の性能に頼っているんじゃないのか!?」
かなり頭に血が昇っているのか、リアは不躾な質問を繰り出した。
その瞬間、この場に居る全員(精霊含む)が驚いたり呆れたりする。
何故なら、レクスの実力は本物だから。
「へぇー?なら、試してみるか?」
二本の剣を近くの騎士に預け、レクスは代わりに支給品の剣を借りる。
「先手は譲ってやるから、掛かってこい」
おもむろに抜刀し、レクスは悠然と構えた。
と同時に、精霊達が騒ぎ出す。
『やっちゃえ、シスコーン!』
『この際だから、コテンパンにー!』
『生半可なことしたら、許さないんだからー!』
勢いよく拳を振り上げて、応援する精霊達。
(今回ばかりは精霊さん達に、同意だね。あの人は一度、痛い目を見た方がいいと思う。それで、お兄様の実力を疑ったこと反省してほしい)
密かに腹を立てていたプリシラは、少しだけ眉を顰めた。
────と、ここでリアが拘束から解放され、剣を抜く。
「上等だ……!(ここで団長の無能を証明して、僕の実力をきちんと示してやる!)」
強気な姿勢を貫き、リアは勢いよく駆け出した。
そのままの勢いでレクスに斬り掛かり、カキンッと剣同士がぶつかる音を響かせる。
「(今の一撃を止めるか……!いや、こちらから攻撃するのは分かっていたんだから別に驚くようなことでもないか!)」
一瞬怯みそうになるものの、何とか持ち直し、リアは猛攻を続ける。
それを、危なげなく回避・防御するレクス。
「(青騎士団の入団試験をパスするだけあって、実力は悪くないな。基本がしっかりしているし、力やスピードもかなりある。先日の一件は本当にただビビっていただけで、ちゃんと動けていればそれなりに活躍しただろう────だが、俺の敵ではない)」
カンッと強くリアの剣を弾き、レクスは彼の腹に蹴りを入れた。
それにより、リアは吹っ飛んでいく。
「(い、息が……!)」




