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氷剣のメンテナンス完了

◇◆◇◆


 ────青騎士団の遠征に合流してから、約二週間後。

プリシラは氷剣の研ぎ直しや術式の確認も終え、無事にメンテナンスを終えた。


「ん〜〜〜!頑張ったぁ!」


 思い切り伸びをして、プリシラは満足そうに微笑む。

すると、精霊達が彼女の真似をした。


『頑張ったー!』


『たー!』


『ぁー!』


「ふふっ。精霊さん達も、お疲れ様。今回もたくさん力を貸してくれて、ありがとう」


 嬉しそうに声を弾ませるプリシラに、精霊達はニッコリ笑う。


『『『これくらい、朝飯前だよー!』』』


 自身の胸元を軽く叩き、精霊達はえっへん!と顎を逸らした。

その傍で、プリシラは氷剣を鞄の中に収納する。


「さてと、早速お兄様に届けに行きましょ」


『『『おー!』』』


 一斉に右の拳を振り上げる精霊達。

プリシラはそんな彼らを微笑ましげに見つめ、家から出た。


「────おや?プリシラ様、どこかに行かれるのですか?」


 警備として家の傍に立っていたセドリックは、プリシラの登場に少し驚く。

何故なら、彼女は合流してからずっと引き籠っていたので。


「(えっと、確か拠点(キャンプ)まで案内してくれた人だよね)お久しぶりです。氷剣のメンテナンスが終わったので、お兄様に届けに行こうとしていたところです」


「えっ?もう、ですか?(魔剣のメンテナンスは何かと手間が掛かるから、最低でも一ヶ月くらい掛かるんだが……)」


「(『もう』?私としては、いつも通りだけど)はい」


「そ、そうですか(さすが、プリシラ様だな……)では、団長のところまでご案内します」


 同行を申し出て、セドリックはおもむろに歩き出す。

プリシラは素直にそのあとをついて行った。

間もなくして、会議用のテントに辿り着く。


「お兄様、氷剣のメンテナンス終わったよ」


 入り口からひょっこりと顔を出し、プリシラは声を掛けた。

その途端、テーブルを囲んであれこれ話し合っていた面々が顔を上げる。

中でも、黒髪金眼の美丈夫……レクスは素早かった。


「プリシラ!!!」


 先程までの難しい顔つきから、一変……レクスは満面の笑みを浮かべる。

団長としての矜恃とか騎士としての誇りとか全て放り投げ、彼はプリシラに抱きついた。

かと思えば、スリスリと頬擦りする。


「わざわざ、届けに来てくれたのか〜〜〜!プリシラは気遣いの出来るいい子だな〜〜〜!」


『『『うわぁー、デレデレのデヘデヘー!』』』


 破顔しているレクスを指さし、精霊達は重度のシスコンっぷりをなじった。

わざとらしく口元に手を当てる彼らの前で、プリシラは困ったような表情を浮かべる。


お兄様(おにぃひゃま)このままじゃ(ほのままじゃ)剣出せない(剣出へにゃい)


「おっと、悪い!」


 慌てて身を起こすレクス。


「そうだ、この代替品として借りていた剣もらい受けてもいいか?」


 不意に二刀流の話を思い出し、レクスはお伺いを立てた。

すると、プリシラは特に深く考えることなく首を縦に振る。


「うん、いいよ。私は使わないし────はい、氷剣」


 鞄から氷剣を取り出し、プリシラはレクスに手渡した。

と同時に、レクスは頬を緩める。


「ありがとう、プリシラ!」


 愛剣の帰還を素直に喜ぶレクスに対し、プリシラはスッと目を細めた。


「(こんなに喜んでもらえると、もの作り冥利に尽きるな)どういたしまして。じゃあ、私は戻るね」


「ああ(本音を言えばもう少し一緒に居たいが、プリシラも疲れているだろう。ここはしっかり、休ませてやらねば)」


 良くも悪くもプリシラファーストなので、レクスは大人しく彼女のことを送り出した。


(戻ったら、一眠りしてブドウ味のポーション作りに専念しよう)


 欠伸を噛み殺しつつ、プリシラはセドリックと共に来た道を引き返していく。

そのとき────近くのテントの陰から、一人の青年が姿を現した。

先日、大目玉を食らったリアだ。


「(このときをずっと待っていた……!)」


 ここ二週間、リアは何度もプリシラに接触を図ろうとしていた。

だが、家の結界と警備のせいで近づくことすらままならずプリシラの外出をひたすら待つことしか出来なかった。


「貴方が、かの有名な錬金術師ですね」


 プリシラ達の行く手を阻むように立ち塞がり、リアは何がなんでも話を聞いてもらおうとする。

その瞬間、セドリックが眉間に深い皺を作った。


「下がれ。プリシラ様への無用な接触は、団長に固く禁じられている」


 先程までの丁寧で柔らかい物腰が嘘のように、セドリックは無骨で冷ややかな態度に変わる。

先日のリアのやらかしを直接見ているだけに、かなり警戒していた。

────が、リアはそんなのお構いなしに話を続ける。


「貴方の腕を見込んで、一つお願いがあります。僕にも、武器を作っていただきたい。出来れば、剣がいいですね。あぁ、もちろん代金は……」


「黙れ!」


 怒気を孕んだ声色で遮り、セドリックは眉間の皺を更に深くした。


「(こいつ、命知らずか……!?皇室ですら無闇に接触出来ないプリシラ様に堂々と声を掛けた挙句、仕事の依頼だと……!?最悪、実家ごと粛清されるぞ!)さっさとそこをどけ!」


 プリシラの護衛という立場上、あまり離れる訳にはいかないため、セドリックはリア自ら退くよう働き掛けた。

────と、ここで近くのテントから他の騎士達が顔を出す。


「おい、何騒いで……なっ!?プリシラ様!?」


「何でここに……!?って、リア!?」


「まさか、また何かやらかして……!」


 実に勘のいい他の騎士達は、即座に状況を理解してリアの方に向かった。

急いで拘束して連れて行こうとする彼らを前に、リアは必死に抵抗する。


「やめろ……!触るな……!僕は栄えあるオリエンス子爵家の息子だぞ!こんな扱い……!」


「身分を盾にするならこっちも言うけど、こう見えて侯爵家の三男だから!」


「俺、伯爵家の次男!」


「私はオリエンス令息と同じ子爵位の人間ですが、カルム皇帝陛下の甥に当たるため血筋や格は上かと!」


 ここぞとばかりに自身の(ただし、リアより上の人達だけ)家柄を話し、マウンティングした。

ちなみに普段、こんな風に身分のことを引き合いに出すことはない。

以前も言った通り、青騎士団は実力主義のため。


「ぐっ……!せ、せめて返事くらい聞かせてくれてもいいだろう!それとも、何か?君達は錬金術師の会話を遮るというのか!」

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