フレイムベアの群れ
「行くぞ!各個撃破だ!」
その言葉を合図に、騎士達は戦闘を始める。
地道に一体ずつ倒していく彼らに対して、レクスは全体的に数を減らしつつ危ないところにフォローへ入るという立ち回りをしていた。
(昨日の会議で予見していた通り、新人達は怯んでいるな。だが、ベテラン達のサポートで何とかなっている。この調子なら、大きな被害もなく討伐出来そうだが……おっと)
フレイムベアの一体がリアに狙いを定めている様子が見えて、レクスは即座に方向転換。
幸い、フレイムベアとリアの距離は離れているため余裕を持ってフォローに回れるかと思われた。
────が、リアの行動で事態は一変する。
「く、来るな……!」
産まれたての小鹿のように震える膝へ鞭を打ち、リアは別の騎士のところへ逃げる。
しかも、あろうことか同じ新人のところへ。
「待て!下手に動くな!」
セドリックは慌てて制止の声を上げた。
が、リアは聞こえていないようで同じ新人の背後に回る。
盾にする気満々だ。
「えっ……?何、して……」
震える声で言葉を紡ぎ、頬を引き攣らせるのは今まさに盾にされている新人騎士のノーマンだった。
間違いなくこちらに向かってくる一体のフレイムベアを前に、彼は青ざめる。
反射的に後ろへ下がろうとするノーマンの前で、リアは────
「おい、下がるな……!前に出ろ!僕を守れ!」
────彼の背中を押した。
それも、結構強く。
恐らく、生命の危機に瀕して加減出来なかったのだろう。
「っ……!?」
ノーマンは見事に体勢を崩し、盛大に転ぶ。
そのせいで、フレイムベアとの距離が縮まってしまった。
(不味いな、これは……)
フレイムベアの攻撃範囲に入ったことを察知し、レクスは眉を顰める。
その刹那、フレイムベアが大口を開けて火を吹いた。
「うぁぁあああああ!!!」
悲鳴とも絶叫とも捉えられる大声を上げるノーマン。
理由は言わずもがな、フレイムベアからの炎攻撃で……なんと、まともに食らってしまったのだ。
転んだ状態では、即座に避けることも出来なかったから。
「(痛い……痛い!痛い!痛い!)」
ほぼ全身焼け爛れたノーマンは、空気に触れるだけでも激痛を覚える。
特に顔の火傷が酷かった。
森の中だから広い視野を確保しよう、と兜の類いはしてなかったため。
まあ、鎧で隠れている部分も無事とは言い難いが。
物理的な衝撃は防げても、熱まではどうにも出来ないので。
「動ける者はノーマンの手当てをしろ!」
レクスは滑り込むようにノーマンの前へ行き、フレイムベアの首を刎ねた。
かと思えば、この場を離れて別のフレイムベアに向かっていく。
彼の今すべきことは、魔物を蹴散らしてノーマンの治療を邪魔させないことだから。
「ノーマン、しっかりしろ!」
真っ先に駆けつけたのは、ベテラン騎士のセドリックだ。
ノーマンの横で膝を折り、彼はウエストポーチの中から小瓶を取り出す。
「ポーションだ、飲めるか!?」
小瓶のキャップを取り、セドリックはノーマンの口元に近づけた。
すると、ノーマンは僅かに唇を開けてポーションを飲む。
だが、傷口に染みるようでかなり苦しそうだった。
「(これはちょっと……いや、かなり厳しいな。傷の治りが遅い上、呼吸も弱い。このままだと、もしかしたら……)治癒魔法使えるやつ、来てくれ!」
ウエストポーチから二本目のポーションを取り出しつつ、セドリックは叫んだ。
『はい!』と言って駆け寄ってくる別の騎士を前に、彼は懸命に治療を続ける。
────と、ここでレクスが最後のフレイムベアを撃破してこちらにやってきた。
「容態は?」
「正直、かなり悪いです……宮廷薬師のポーションと団員の治癒魔法を駆使しても、一命を取り留められるかどうかで……(多分、もう騎士としてはやっていけないだろうな)」
ノーマンも聞いているため、セドリックは最後の言葉だけ口にしなかった。
だが、レクスには何となく伝わったようで……おもむろに目を閉じる。
「……当人のミスで招いた事態ならともかく、今回ばかりはさすがに不憫か」
半ば自分に言い聞かせるようにして呟き、レクスは瞼を上げた。
何か決断した様子で、自身のウエストポーチから小瓶を取り出す。
それはセドリックの持っていたポーションと似ているが、中身の液体は違っていた。
厳密に言うと、色が異なるのだ。
「ノーマン、飲め。零したら、許さん」
小瓶のキャップを外し、レクスはオレンジ色の液体をノーマンに与えた。
その途端、ノーマンは全身から白い煙を上げ────完治する。
「ぁ、れ……痛く、ない?治っ、た?」
困惑気味に目を瞬かせ、ノーマンは自身の体を見つめた。
その傍で、レクスは得意げに笑う。
「ああ、恐らく古傷や肌荒れなんかも治っている筈だぞ。なんせ、これは────プリシラお手製のポーションだからな!しかも、原液だ!」
「「「おお!」」」
ベテラン騎士達は思わず感嘆の声を上げた。
何故なら、プリシラお手製のポーションなんてなかなかお目に掛かれるものじゃないから。
まず市場には出回らないし、皇室でも数本確保するのがやっと。
ほぼ幻扱いの代物だ。
「プリシラのポーションは、効能が桁違いでな!普段は希釈して、使っているんだ!ただ、今回はそんな暇も道具もなかったからそのまま投与した!」
「えっ……!?(そんな希少なものを原液で使っていただいたのか……!この場合、対価ってどうなるんだ……!?自分に支払えるのか!?)」
現実的な問題が浮上し、ノーマンはサァーッと血の気が引く。
支給品のポーションならともかく、団長個人の……それも錬金術師のお手製ポーション。
『非常事態なんだから、タダでいいよね』とは、いかないだろう。
「あ、あの……代金って……」




