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メラハ王国の悪夢

◇◆◇◆


 ────バーラン王国の首都にあるギルドにて。

しがない冒険者のウィリアムは、頭を抱えていた。


(クソッ……!グレイテール帝国と貿易停止だって!?それも、バーラン王国(こっち)が一方的に!?馬鹿なのか!?)


 愚行と言わざるを得ない上層部の動きに、ウィリアムは眉を顰める。

椅子に座ったままテーブルの上をじっと見つめ、やがて顔を上げた。


「お前ら、今すぐバーラン王国を出るぞ」


 同じテーブルについている仲間達を前に、ウィリアムは真剣な面持ちとなる。

とても冗談を言っているようには見えない彼の前で、仲間達は大きく目を見開いた。


「はっ?何で?」


「もしかして、グレイテール帝国との一件を気にしている?」


「確かにちょっときな臭いとは思うが、そんなに過剰反応するようなことか?」


 『まだ様子見でいいんじゃないか』と主張し、仲間達は小首を傾げた。

あんまり緊張感がない彼らを前に、ウィリアムは大きく首を横に振る。


「ダメだ!それでもしも、戦争になって逃げ遅れたらどうする!」


「ど、どうするって……」


 仲間の一人はウィリアムの気迫に押され、たじろぐ。

他の者達も……なんなら、周囲に居たギルド職員や別の冒険者も狼狽えていた。

自然と静まり返るギルド内を前に、ウィリアムは目頭を押さえる。


「実は俺、メラハ王国出身なんだ……」


「「「!」」」


「あのメラハ王国の悪夢(・・・・・・・・)を体験しているんだよ……!」


「「「!!」」」


 ビクッと大きく肩を揺らし、仲間達やその周囲に居た者達は息を呑んだ。

僅かに表情を硬くする彼らの前で、ウィリアムは唇を噛み締める。


「お前達も概要は知っているだろうが、あのときメラハ王国に居た奴らは開戦直後に眠った。というか、気を失った。で、目覚めたら全部終わっていたんだ……」


 当時のことを思い出し、ウィリアムは若干青くなる。


「いつの間にかグレイテール帝国の軍が侵攻していて、いつの間にか王城占領されていて、いつの間にか王族や主力貴族の首が落ちていて……まるで、悪夢だ!」


 自身の腕を強く掴み、ウィリアムは大きく(かぶり)を振った。

小刻みに震えている彼を前に、仲間の一人が困ったような表情を浮かべる。


「ちょっと……大袈裟ね。確かに気味は悪いけど、ウィリアム自身の被害はなかったんでしょ?なら……」


「それは前回の話だ!今回もそうとは限らない!そして────グレイテール帝国がまたあの強制睡眠を行い、皆殺しを選んだ場合俺達は抵抗出来ないというのが何より恐ろしい!だって、無防備に寝ているんだぞ!?お前、敵の前で腹を出して寝れるか!?」


「そ、れは……」


 ようやくウィリアムの恐怖心が伝わったのか、その仲間は表情を強ばらせた。

他の仲間達や周囲に居た者達も、同様に顔色が悪い。


「(確かにこれは大事になる前に逃げた方が、いいかも……)」


「(命あっての物種だもんな……)」


「(異動願いを出して、私もバーラン王国から出ようかな……)」


「(他の誰でもないメラハ王国の悪夢を体験したやつが言うんだ、無下には出来ねぇーか)」


 ウィリアムの警告を真剣に受け止め、彼らは重い腰を上げる。

────その空気はバーラン王国全体に伝播していき、やがて四分の一ほどの民が他国に移った。


 さて、ここでウィリアムの知らない話を一つ。

メラハ王国の者達を眠らせたのはプリシラの作った魔道具なのだが、これは『あまり血を流さないようにしたい』という彼女の思いが込められている。

なんせ、戦争理由がプリシラを巡ったものだから。

つい責任を感じて、『眠らせれば、あとはどうにでも出来るよね』と強制睡眠魔道具を作った。


 要するに、プリシラとしては善意100パーセントの代物だ。

だが、この認識のズレである。

ヘイゼルやカルムはその間違いを正すべきか少し迷ったが、『恐れられていた方が、何かと都合がいい』となり、結局放置した。

なので、この事実を知っているのは極一部の人間だけだ。

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