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バーラン王国への対応

◇◆◇◆


 ────一方、その頃のヘイゼルはと言うと……帰ってきた夫のライアン・ハザック・レーヴェン公爵と、それについてきたカルム・メレフ・グレイテール皇帝陛下に先日の詳しい経緯を説明していた。

例の円柱型の置き物を駆使しながら。


「この男、何様のつもりだ……!プリシラの結婚話を強引に進めようとした挙句、ヘイゼルに暴言を吐きおって!使者だからと言って……いや、だからこそ!このような対応は許されない!」


 ライアンは烈火の如く怒り、目の前のテーブルに拳を叩きつける。

元々強面の顔が更に怖くなる彼の前で、カルムは困ったように笑った。


「これは正式に抗議するべきだね。下手に放置したら、増長しそうだ」


 茶色がかった瞳に憂いを滲ませ、カルムは肩を竦める。

その際、緩く結った青髪が小さく揺れた。


「それにしても、プリシラ嬢の作ったこの魔道具とても便利だね。声や音を記録しておけるだなんて」


 例の円柱型の置き物────改め、記録魔道具にそっと触れるカルム。

これは底のボタンを押すと録音が開始され、もう一度押すと終了するというもの。

バーラン王国の使者(アネーロ)と対面したとき、ヘイゼルがこっそり使用していたのだ。

ちなみに録音された音声は、側面にある複数のボタン◀〇▶を押すことによって、巻き戻し・再生&停止・早送りが可能である。


「ええ、大事な会議や取り引きのときに重宝しております」


「ウチの娘は天才ですからな!」


 素直に褒め言葉を受け取るヘイゼルとライアンに対し、カルムは小さく頷く。


「(この圧倒的技術と才能を他所にやるなど、愚の骨頂だ。戦争も覚悟の上で、バーラン王国には厳しく接するべきだろう)では、私は皇城に戻るよ。早速、バーラン王国への抗議文をしたためなくては」


 そう言うが早いか、カルムは応接室のソファから立ち上がった。

なので、ヘイゼルとライアンも起立して彼のことをしっかり見送る。


(これでバーラン王国側が、大人しくなってくれるといいのだけど)


 ヘイゼルは自身の頬に手を添え、一つ息を吐いた。

────その一週間後。

バーラン王国より抗議文への返信が届いたらしく、再びカルムの来訪を受ける。


「あー……端的に言うと、ヒートアップしたみたい」


 カルムは開口一番にそう言い、額に手を当てた。

応接室のソファの上で何とも言えない表情を浮かべる彼に、ヘイゼルとライアンは苦い顔をする。


「すんなり引き下がるとは思ってなかったけれど、ヒートアップって……(堪え性がないというか、喧嘩っ早いというか)」


「……具体的にどういう内容なのでしょうか?(場合によっては、容赦せん)」


「まず、バーラン王国の使者(グナーデ子爵)の態度については知らぬ存ぜぬを貫いてきた。一応、こちらは証拠となる音声もあると言ってあったんだけど……プリシラ嬢(帝国の人間)が作った魔道具を証拠品として信用は出来ない、と。何か細工してある可能性を疑っているみたいだ」


 向かい側のソファに座る二人を見据え、カルムは肘掛けに寄り掛かった。

と同時に、ライアンが表情を険しくする。


「プリシラが細工など、する訳ないだろう……!あの子は自分の作品に誇りを持っているのだから!」


「まあ、こればかりは仕方ないわ。私達も逆の立場なら、『信用出来ない』と切り捨てたでしょうし」


 ライアンの肩に手を置いて宥めるヘイゼルは、金の瞳を見つめた。

すると、彼は


「それは……うむ」


 少し考えるような動作を見せてから、すごすごと引き下がる。

ガシガシと頭を搔いて黒髪を揺らす彼の前で、カルムは足を組んだ。


「それでね、バーラン王国は遺憾の意を表明して────貿易停止を宣言してきた」


「「!?」」


 小さく息を呑み、ヘイゼルとライアンは僅かに動揺を示す。

でも、絶望や悲嘆といった感情は見せなかった。

『あっ、本当にやったのか』程度の感想だ。


「こちらが誠心誠意謝罪し、プリシラ嬢との結婚を認めない限りこの宣言を解くつもりはないようだよ」


 カルムはバーラン王国の意向を話し、苦笑にも似た表情を浮かべた。

困った子を見るような目をしている彼に、ヘイゼルは小さく相槌を打つ。


「なるほど、バーラン王国の上層部はかなり血迷っているようですね。普通、この段階で貿易停止なんてしませんもの。もう少し様子を見て、話し合いで解決出来ないか模索しますわ」


「全くだ。ヒュドール国王は一体、どうしてしまったんだろうね(多少気性の荒いところはあったけど、ここまでではなかった筈なんだよ)」


 ヒュドール国王と何度か顔を合わせたことがあるため、カルムは強い違和感を抱いていた。

その傍で、ライアンはスルリと自身の顎を撫でる。


「さすがに歳ということでは?」


「あぁ、それはあるかもしれないね」


 口元に手を当てて、カルムは納得したように頷いた。

かと思えば、急に神妙な面持ちとなる。


「ねぇ、二人とも。もし、私が寄る年波に勝てず変な行動を取り始めたら思い切りぶん殴って玉座から下ろしてくれ(私がヒュドール国王のような暴挙に出たら、最悪国ごと滅ぶ)」


「心得ました」


「カルム皇帝陛下なら問題ないかと思いますが、畏まりました」


 了承するライアンとヘイゼルに対し、カルムは満足そうに微笑む。


「よろしく頼むよ────とりあえず、バーラン王国の方は静観するつもりだ。もちろん、『我々は何も間違ったことを言っていないから、そちらの要求を呑む義理はない』と返信した上でね」


「それが良いかと思います」


「下手に歩み寄る姿勢を見せると、つけ上がりそうですからな(本音を言えば今すぐバーラン王国に怒鳴り込みたいところだが、ここは我慢だ)」


 冷静に賛同するヘイゼルと、若干物騒なことを考えているライアン。

そんな二人を前に、カルムは立ち上がった。


「じゃあ、私はこれで失礼するよ。プリシラ嬢によろしく伝えておいてくれ」

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