プリシラの日常
────錬金術師。
それはポーション、魔道具、武器など全ての生産職を扱える最高峰の制作者のこと。
一世代に一人居ればいい方、と呼ばれる人材だ。
その中でも、歴代最高峰と呼ばれる錬金術師が居た。
名を、プリシラ・ニーナ・レーヴェンと言う。
◇◆◇◆
「やった!出来た!」
道具や資料に囲まれた部屋にて、プリシラは金の瞳を輝かせた。
オレンジ色の液体が入った試験管を、嬉しそうに見つめながら。
『良かったねー!』
『僕達のおかげー!』
『プリシラと私達の共同作品よー!』
そう言って、えっへん!と胸を張るのは蝶々の羽根を生やした小人達だった。
少し動く度キラキラと光る粉を落とす彼らの前で、プリシラは明るく笑う。
「うんうん、分かっているよ!精霊さん達、いつもありがとう!」
────精霊。
自然を司る存在で、基本どこにでも居る。
でも、こんなに一箇所に集まっているのは非常に珍しかった。
その理由はプリシラが────精霊の姿を見て、声を聞き、意思疎通出来る愛し子だから。
「さてと、次は何を作ろっかな〜。っと、材料が結構減っちゃっている。採りに行かなきゃ」
『『『僕達も行くー!』』』
「本当?助かる!」
素早く白衣を脱いで着替え、プリシラは胸元まである茶髪を軽く梳かした。
一応、貴族の出なので必要最低限の身嗜みは母に叩き込まれているのだ。
「準備完了!いざ、ダンジョンへ!」
腰に手を当てて、プリシラはビシッと前方を指さす。
そして、華麗にターンしつつ腕時計のベゼルと呼ばれる部位をグリングリンと回した。
すると、一瞬にして景色が変わり、とある建物の前に転移する。
『ぅお!?』と驚く周囲の人々を前に、プリシラはルンルンと歩き出した。
(やっぱり、転移系の魔道具は便利ね)
────魔道具。
魔力を動力源にしたモノの総称。
主に魔力の結晶と呼ばれる魔石が使われているため、魔力を持たない者でも使用可能だ。
ちなみに先程の腕時計は行きたい場所を思い浮かべながらベゼルを回すと、そこに転移出来るというもの(指さしやターンは必要ない)。
本来であれば国宝レベルの魔道具だが、プリシラは馬車感覚で使っている。
「ダンジョン、ダンジョン♪」
意気揚々と目の前の建物────レーヴェン領のダンジョンに入ろうとするプリシラ。
その姿を見て、一部の人間がざわめく。
「お、おい……女の子一人で、ダンジョンなんて大丈夫なのか?」
「心配だな。ほぼ丸腰だし……」
「一撃でやられそうに見えるな……」
ダンジョンは魔物と呼ばれる魔力を帯びた生物の巣窟だ。
危険極まりない。
ただ、そいつらを倒せば質のいい革や宝石などがドロップするため、挑戦者が後を絶たない。
「なあ、お嬢さん。悪いことは言わないから、家に帰りな。何かあれば、親御さんが悲しむよ」
堪らずといった様子で声を掛ける一人の青年に、プリシラは小首を傾げる。
「? 大丈夫です!『何か』なんて、起きないので!」
『そうそう!僕達がちゃーんと守るからねー』
『それに、プリシラの装備も凄いしー』
『パッと見、ただの服やアクセサリーに見えるけど、全部魔道具なんだからー』
キャハハ!と楽しげに笑い、精霊達はプリシラの周りをクルクル回る。
────と、ここで中年の男性が慌ててこちらにやってきた。
かと思えば、青年の肩を掴む。
「馬鹿!お前……!」
「えっ?ちょっ……なんスか?」
「この方を誰だと思っている……!レーヴェン公爵家の末娘にして、グレイテール帝国唯一の錬金術師プリシラ様だぞ!このくらいのダンジョン、大丈夫に決まっているだろ!」
「へっ?」
目が点になり、青年は内心首を傾げた。
だって、レーヴェン公爵家の末娘+グレイテール帝国唯一の錬金術師=強いというイメージがないから。
「えっと、確かに凄い肩書きですけど……いや、だからこそ止めるべきなのでは?」
「プリシラ様は特別なんだ!とにかく、下がれ!」
男性は引き摺るような形で青年のことを後ろに下げ、背筋を伸ばす。
「プリシラ様、ウチの者が大変失礼しました!」
「あぁ、はい」
良くも悪くも他人に興味がないプリシラは、『それでは』と挨拶してダンジョンに足を踏み入れた。
建物内にも拘わらず草木が生い茂っている空間を前に、彼女は迷いのない足取りで奥へ進む。
『あっ、あそこに薬草あるよー!』
『採ってきてあげるー!』
『確か、あの木の実も薬になったよねー!』
『風でビューンって、するかー!』
精霊達は張り切った様子で、直接薬草を引っこ抜いたり風を起こして運んだりする。
なので、プリシラはウエストポーチ型の鞄を開け、口の部分を前方に向けた。
すると、精霊達の採取した薬草や木の実が鞄の中にどんどん吸い込まれていく。
実はこの鞄も魔道具の一種で、空間拡張と軽量化の処置がされている。
そのため、見た目より物が入るし、とても軽い。
プリシラが愛用している魔道具の一つだ。
「プリシラ様の魔道具は何度見ても、凄いな」
傍で薬草採取をしていた男性が、ポツリと呟いた。
その横で、知り合いと思われる女性もうんうんと頷く。
「自動で採取・回収出来るんだから、ビックリよね〜」
精霊達の採取作業も魔道具の効果によるものだと勘違いしているらしく、女性は『一瞬で終わっていいな〜』と述べた。
普通は地道に薬草を探して、慎重に引っこ抜いて、丁寧に仕舞って……という根気のいる仕事だから、羨ましく感じるのだろう。
「まあ、こんなのまだ序の口だけどな」




