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クラリスの献身 ~私に死ねと言ったのは、あなたでしょう?~  作者: 紺青


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16. 後悔する者たち

 召喚聖女が泣き崩れ、それを呆然と見ている王太子。それを呆れたように見ているアンブロワーズと白い猫。


「ローレンス!!」

 今度は誰かと思ったら、王妃様の登場だ。


「……母上、なぜここに?」


「助けて! ローレンス!」

 王妃ははらはらと綺麗な涙をこぼしながら、息子に縋る。どっちが親なのかわからないな。


「どうされたんですか?」


「王妃付きの女官が一斉に、辞表を提出してきたの。全員よ? 信じられる?」


「……こんな時に」

 ローレンスの顔が一気に青ざめる。事の深刻さがわかっているから、余計に。

 王妃付きの女官といったら花形の職種だ。でも、この女が王妃になったのが運のツキ。なんの仕事もできない女の下で、責任だけ重い仕事を任され、手柄は全て王妃のもの。

 

 王太子の婚約者のクラリスが王妃に代わり、仕切ってくれて楽になったのもつかの間。彼女は手の届かないところに行ってしまった。見切りをつけた女官達を責めることはできないだろう。むしろ、よくここまでがんばったというべきか。


「だって、あの子がなにも言わないから! 文句がないっていうことは満足していたってことでしょ?

 ねぇ、クラリス。戻ってきなさいよ! 早く指示をくださいって言われたの。わたくしにはわからないわ! 私の代わりに仕事をしてくれる人がみんないなくなっちゃったの! ねぇ、一週間後には王太子と召喚聖女の婚約をお披露目する夜会があるのよ! どうしたらいいのよ! 答えなさいよ! クラリス!」


 王妃もクラリスの絶望する顔が見たくて、この茶番を後押ししたんだろう。考えが浅いとは思っていたが、目障りなクラリスを排除して、どんな結果になるかもわかっていなかったのだろうか? 今までなんとかなっていたから、これからも泣き落としが通用するとでも思っていたのだろうか?


「クラリス……戻ってきてくれ……みんな君が必要なんだ……戻ってきてくれ! 私の隣に立てるのはクラリスだけだろう? 私をそして、母上を助けてくれないか?」

 王太子が絞り出すような声で懇願する。


「国のために走り回っていた次期王太子妃に自己犠牲を強いて、召喚した聖女は壊れゆく。果たして君は王太子でいられるのかな?」

 誰ともなくつぶやくアンブロワーズの言葉は、自分の悲劇に酔っている彼らの耳には届かない。


 クラリスの聖女就任以降、この国から出て行く者が後を絶たない。

 クラリスが王宮や神殿や国中の至る所に顔を出し、この国を良くしようと走り回っているのを多くの者が見ている。そんなクラリスを簡単に王族は切り捨てた。賢い者はこの国に見切りをつけるだろう。


 聖女召喚で犠牲を強いられた魔法師団は特に危機意識が強いだろう。大神殿の魔石の魔力供給に結界の維持のための魔力供給。クラリスの次に犠牲になるのは魔法師だ。魔法師の国外流出は止まらないだろう。


 聖女就任の場におけるクラリスとのやりとりで、王や王太子の傲慢な態度と婚約者を使い潰すことをなんとも思っていないことが明らかになったのに、本人たちだけが気づいていない。王太子と釣り合う年頃の令嬢は婚姻を急いだり、他国と縁を繋いだり留学したり、娘を愛する親ほど迅速に動いている。次に王太子妃や側妃に指名されたら、そこには地獄が待っているのだから。



「叔父上、その猫は? 白い毛並みに琥珀の瞳。まるでクラリスのようだ……。ゆずってもらえないか?」

 虚ろな目をした王太子がアンブロワーズの抱く子猫を見て、手を伸ばしてくる。


 確かに彼女の色彩と腕に抱く子猫はそっくりだ。銀色にも見える白く艶めく毛並み。甘い琥珀色の瞳。まぁ、そっくりになるように作ったから当たり前なんだけど。


 子猫は王太子をシャッと威嚇すると、アンブロワーズの首元に隠れた。


「すみませんね。この子人見知りが激しくてね。譲ることはできないなぁ」


「兄弟猫はいないのか?」


「あいにく捨て猫でしてねぇ。殿下のような高貴な方にはふさわしくないですよ。それより、こんなところで無駄な悪あがきをしてる暇はあるんですか? 色々と火消しに回らないと大変なことになりそうですけど」

 視線で泣き叫ぶ王妃と時折体が歪み悲痛な悲鳴をあげる召喚聖女を指すと、彼はようやく立ち上がりよろよろと奥神殿を後にした。


「クラリスの犠牲で瘴気は減っていくだろうけど、これから大変そうですねぇ。僕らには関係ないけど。さぁ、部屋に帰るか」


 王太子が残していった女二人をそのままに、アンブローズも奥神殿の扉に手をかける。薔薇園の石畳みの道に出ると、護衛を伴った兄が仁王立ちしていた。


「結界は無事張れたんだろうな?」


「まぁ、つつがなく」


「なら、クラリスの代わりにお前がこの金の腕輪をつけるんだ!」


「お断りします」

 ローブの中で抱きしめている白猫の毛が逆立っているので、なだめるようにゆっくりなでる。


「姉が亡くなった後に、言ったでしょう? 片方、血の繋がった兄弟だからって、あなたの言う事を聞く気はさらさらないと。姉を失って、もう僕には失うものなんてないんですよ。言いましたよね? いつだってこの国を出て行けるし……この国を焦土に帰すこともできるって」


「お前っ!!」

 目の前の半分血の繋がった男は、怒りで顔を真っ赤にさせているけど拳を繰り出すことはしない。この国の頂点に立つ王だろうとなんだろうと怖くないのは事実だし、魔法ですぐに返り討ちにできる。面倒臭いから、しないだけだ。


「覚悟を持ってあのなんの役にも立たない王妃を娶ったんでしょう? それなら、一生がんばってくださいよ。情けないと思いませんか? えーと、クラリスが五歳の時だから、十二年? クラリスの魔力を半分も吸い取っていたんでしょう? 本人の許可も得ずに」


 魔力制御の腕輪と偽っていた金の腕輪は、対となる腕輪を持つ者に自分の魔力を半分、自動的に分け与えるものだ。魔力の多い者から少ない者へ。これが王家に代々伝わる秘宝だっていうんだから、反吐が出る。


 王太子との婚約の証である銀の腕輪も同じ仕組みだ。金の腕輪が銀の腕輪より優先されるから、クラリスは王に魔力を与えて、更にその半分を王太子に与えていたことになる。


 大神殿の魔石は、魔力の持ち主の色に光り輝く。いつも白く輝いていたのは、供給された魔力が全てクラリス由来のものだったからだ。王族の魔力の色は本来、寒色系のはず。これまでクラリス頼みだった魔力供給、どうするんだろうなぁ?


 ()()()()()()がその秘密を()()()()漏らして、貴族に伝わってしまうかもしれない。そうしたら、貴族もクラリスの犠牲を知って、もう魔力測定にすら足を運ばなくなるかもしれない。


「お前も王族だろう?」


「権利も与えてこなかったくせに、義務だけ課そうとしてくるの止めてくれます? 今回はマリーの弟子のクラリスのためにひと肌脱いだだけで、陛下や国に尽くす気はさらさらないですよ」


 王をじっと見つめる。見た目だけは立派なんだけどな。風格もあって、男らしい風貌で。


「魔力供給は魔力があれば誰でもできるでしょう? 王族以外でもできるのだから、交代制にしたらいい」


 でも、魔力供給の神聖さを失ったら、人々は思うようになるだろう。その金の冠を頂くのは誰でもいいのでは、と。

 犠牲になった魔法師達も黙ってはいないだろう。召喚聖女の真実が流布される日も近い。召喚聖女の失策と、無垢で献身的な婚約者を犠牲にした王家。それについてくる者はいるかな?


 アンブロワーズと同様に色々と思考を巡らせたのか、今度は顔色を青白くしている。


「父のようになりたくなかっただけなんだ……。母のことは義務だけで愛することも大切にすることもなく、お前達にかまって……。あんな風になりたくなかったんだ……」


 魔力も能力もなにもかも足りていない女を愛しているという理由だけで王妃にして、仕事を子供世代に押し付けて。自分はクラリスの魔力を半分供給してもらい、あたかも豊富な魔力量があるように見せかけて。クラリスの前には婚約破棄した婚約者や魔法師などに金の腕輪を着けさせ、ずっと魔力が膨大にあるように見せかけていたことを僕は知っている。浅はかで目の前のことしか見えていない愚かな男。


「……助けてくれないか……アンブロワーズ」


「お断りします。僕も助けてくれとかつて一度願いましたよね。一蹴されましたけど」

 どの道、姉が生き残る道はなかったけど。それでも縋った手を振り払われたことは忘れない。やっと静かになった兄に背を向けて歩き出す。


「まぁ、本当の地獄はこれからなんだけど」


 誰かがいなくなっても仕事は回る。一時は混乱するかもしれないけど、収まるべきところに収まる。しかし、この国はゆっくりと終焉へと向って行くだろう。


 くっと笑いを零したら、まどろんでいた子猫の目が開いた。

「ああ、ごめんね。驚かしちゃって。おかしくてさ。今更、懇願しても、もう遅いのにねぇ。さ、今度こそ帰ろうか僕たちの城へ」


 白猫は嬉しそうに小さく「なん」と鳴いた。

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