石の囁き
リリは朝の光に包まれて目を覚ました。窓の外では、小鳥たちがさえずり、柔らかな風がカーテンを揺らしています。小さな箱の中で、魔法の石が昨夜と同じように淡く輝いていました。リリはそっと手を伸ばし、石を手に取ります。手に触れた瞬間、かすかな温かさが指先に伝わり、耳の奥で小さな歌声のようなささやきが聞こえてきました。
「今日は誰を笑顔にしてあげようか…」
まるで石がそう問いかけているようです。リリは胸を高鳴らせました。目の前の小さな光に、まるで秘密を共有する友だちのような親しみを覚えました。
リリは昨日のことを思い返します。森の奥で見つけた瞬間、手に取ったときの不思議な温かさ。夜、眠る前に聞いたかすかな歌声。自分だけのために持っているときも、どこか優しい気持ちになれる力があったのです。しかし、リリは心のどこかで不安も抱えていました。「でも、この石、私だけのために使ったらだめかもしれない…」
考え込むリリの背中を、母の声が呼びました。「リリ、ごはんよ」
朝ごはんを食べながらも、リリの心は石のことばかりでした。食卓の上で、小さなパンくずやミルクの匂いが漂う中、リリは心の中で決めました。「今日は、誰かのために使ってみよう」
広場に出ると、村の子どもたちが元気に遊んでいました。ボールを追いかける子、追いかけられて泣く子、木の下でひとりで座る子。リリは目を凝らし、泣いている赤ちゃんのそばへ近づきました。そっと石を差し出すと、石は淡い光を放ち、かすかな歌を歌い始めました。その瞬間、赤ちゃんの泣き声はふっと消え、顔ににっこりと笑みが浮かびました。
「わあ…石ってすごい…」
リリは胸をときめかせました。次に、木の下で一人ぼんやり座っている子、ミオのもとへ行きました。ミオは最近、引っ越してきたばかりで、まだ友だちがいませんでした。リリが石を差し出すと、光とともに柔らかいメロディが聞こえてきます。ミオの目がぱっと輝き、口元に小さな笑みが浮かびました。「リリ…なんだか嬉しい気持ちになってきた!」
リリは嬉しさで胸がいっぱいになりました。石は自分の思いだけでなく、相手の気持ちに応じて光を変え、心に温かさを届けてくれるのです。しかし、使うたびにリリ自身の気持ちも映し出されることを、リリはまだ知りませんでした。もし自分が欲ばかり考えると、石は光を失ってしまう――だからこそ、リリは毎回、誰かを思いやる気持ちを込めることにしました。
その日、広場には笑顔があふれ、いつもは泣き声や小さなケンカの音が聞こえる場所も、どこか穏やかで暖かい空気に包まれていました。リリは一人一人の子どもたちに石を見せながら、「この石はね、誰かを幸せにする力があるの」とそっと説明しました。子どもたちは興味津々で手を伸ばし、光に触れるたびに嬉しそうに笑いました。
夕方になると、リリは丘の上に座り、村全体を見下ろしました。遠くの森の緑が夕日に染まり、川がキラキラと光って流れています。小さな村に幸せが広がる光景を見ながら、リリは心の中でそっと誓いました。「この石を、村のみんなを笑顔にするために使おう」
夜、リリが眠りにつくと、夢の中で魔法の石の光は柔らかい川のように流れ、光の小さな生き物たちが踊りながらリリの周りを巡りました。石とリリの心が一つになり、村全体に優しさが広がっていくようでした。
こうしてリリと魔法の石は、ただの光る石ではなく、誰かを思いやる力を持つ魔法の石として、少しずつ村の中で大切な存在になっていくのでした。




