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第二話 ラプンツェルよ、さようなら

 思い返せば、十四、五の頃に初めて好きになったのは色が白くて華奢な同級生だった。可愛いものがとびきり似合って、ふわふわとした髪が風で流れる様が好きだった。

 次に好きになった人は、ポニーテールの似合う運動部の先輩だった。帰り道、棒付き飴を片手にこっそりと、いつも先輩の美しい横顔を眺めていた。しなやかに伸びる足、よく日に焼けた肌が眩しく光って。走るたびに揺れる髪は漆黒に輝いていた。


 それからいくつもの恋をした。好きになって、別れて、また好きになって。

 好きがなんなのかわかんなくなってしまったりもして。

 別に髪を基準に選んだわけじゃなかったけれど、彼女たちはいつも肩より下で髪を揺らしていたなと今更のように思う。

 駄目になった恋を考えても何も得るものはない、というのが私の持論だった。

 それから、好きになったら伝えなきゃ意味がないというのも。

 そうして、手に入れたのが沙夜ちゃんだった。


 暗がりの中、スマートフォンの明かりを落として、じっと暗闇に目を凝らす。目の前からすうすうと静かな寝息が耳を打つ。長い睫毛、薄い唇、それからさらさらとした真っ直ぐな髪。月の光で照らされたそれにそっと手を伸ばす。

 この、さらさらの髪から覗く小さな耳が私は好きだ。冷たい頬をなぞって髪を鋤く。指通りの良い髪はすぐ私の掌をすり抜けてしまう。

 綺麗に切りそろえられたショートカットは、沙夜ちゃんのトレードマークだ。キリッとした表情で、スーツに身を包む沙夜ちゃんに、何もいじっていない色の短い髪はよく似合う。

 でも。お化粧を落として、少しお酒を飲んで、いつもよりキリッとしてなくて、お揃いのパジャマ姿でふにゃっとした沙夜ちゃんを、私はもっと好きなのだった。上機嫌で、無防備、それでいて楽しそうに、私の名前を呼ぶ沙夜ちゃんが。

 美味しそうにごはんを食べる沙夜ちゃんが、時々不器用過ぎて落ち込んでしまう沙夜ちゃんが、真っ赤な顔をして小さな声で大好きと呟く沙夜ちゃんが。

 私はとても好きなのだ。


 規則正しい寝息に耳を澄ませていると、私の分まで眠気が静かに忍び寄って来る。

 もう一度だけ、彼女の髪に触れる。それからぎゅうと柔らかい身体を抱きしめた。同じシャンプーの香りが鼻をくすぐる。そんなことが、どうしようもなく嬉しくて、沙夜ちゃんを起こさないようにそっと、そっと笑った。

 暖房が効いた部屋は暖かい。けれど、暖かくても、理由が無くても、彼女とくっついていたかった。

 手を拱いている睡魔に抗わずに、目蓋を閉じる。目蓋を閉じてしまったら、もう昔の彼女たちの顔は、声は、思い出せない気がした。それでいいと思った。もう全てずっと過去のことだった。


 明日目が覚めたら、一番におはようよりも早く沙夜ちゃんに大好きだと伝えよう。本当に、一番、とびきり、大好きなのだと。

 それから彼女に似合う暖かいマフラーを買おうと思った。短い髪に、まっさらな黒に似合う、マフラーを。そうだな、色はきっと赤がいい。

 何もない日にプレゼントなんてと照れ隠しに眉間に皺を寄せる沙夜ちゃんが目に浮かぶ。きっと私はそんな気分だっただけだよとへらへら笑って。それから彼女の細い首にそれを巻いてあげるのだ。

 居心地悪そうに、視線を彷徨わせる彼女を空想し、幸福な気持ちで眠気に身を委ねる。彼女がいる明日に、一秒でも早く辿り着きたいなんて馬鹿げたことを願いながら。

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