まえがき + 目次
まえがき
歴史に名を残した者が、必ずしもすべてを語り尽くされたわけではない。
歴史の影には、名を捨てた者がいた。名を望まなかった者がいた。
そして、名を呼ばれることなく、剣を振るった者がいた。
本作は、永禄三年(1560年)に起こった「桶狭間の戦い」を舞台に、実在の史実に寄り添いながら、その“記録されなかったもう一つの戦場”を描く長編小説である。
主人公・沖田静――名を持たぬ白装束の剣士。
その存在は、軍記にも記録にも一切現れない。
だが確かに彼は、風のように戦場を駆け抜け、剣をもって時代の隙間を裂いた。
彼が斬ったもの。彼が守ったもの。彼が残さなかったもの。
そして、彼の“名”を誰かが語るということ。
本作は、名を失った剣の記憶と、彼を語り継ごうとする人々の想いの物語である。
物語の結末に、“名”が必要ないと感じていただけたなら――
それこそが、この物語の願いである。
名もなき剣に、雪が降る。
一面の白に、その剣は今日も静かに在る。
目次
名もなき剣に、雪が降る ― 2:桶狭間影走り
(全七章・四十七話構成)
前書き・目次
第一章:風の前触れ
01|名もなき剣、影より来たる
02|若き軍神、戦場に立つ
03|矢野蓮という男
04|三日月と焚火
05|名もなき者たちの誓い
06|最初の敗北
07|名を持たぬ刃の咆哮
第二章:疾る影、迫る戦
08|疾風の報せ
09|太一の血
10|風を読む者
11|白装束の幻影
12|消息なき剣
13|帰還と沈黙
14|戦火の兆し
第三章:桶狭間前夜
15|戦の刻限
16|死に場所を選ぶ者
17|影走りの命
18|白刃の帰路
19|太一の告白
20|終焉の約束
21|曇天の道程
第四章:影、裂く
22|奇襲、始まる
23|本陣を目指せ
24|血の花、咲く
25|鬼神、乱れる
26|義元の影
27|討たれし者、討ち果たされし者
28|白き者、姿を消す
29|剣の名を問う
第五章:空白の記録
30|一夜の答え
31|戦が終わった日
32|山中にて
33|剣の在処
34|名もなき者たち
35|名を持たぬ剣
36|終わりの灯
第六章:語り継ぐ者たち
37|風聞
38|斬らずに救った剣
39|太一の記録
40|石碑のない墓標
41|誰が語るべきか
42|君を呼ぶ声
43|祈りの跡
第七章:雪が降る
44|名を呼ぶ者
45|その剣に雪が降る
46|最後の約束
47|名もなき剣、永遠に
巻末資料・補遺・あとがき