00-08 警報!警報!
「投下!」
派手な花火が地上に咲く。俺のXi-37に積まれた爆装は残り半分を切り、気持ちもかなり落ち着いて来ていた。
お陰で周りに目を向ける余裕も出てきた。
南側で飛び回り対地攻撃を続けているリックと、彼の後ろから取りこぼしを丁寧に排除するグレア。
地上では友軍の車輌や随伴兵が、敵小目標を少しずつだが攻略していく。
クランプ隊長は隊員の間を往復するように飛行し、爆撃の障害となる対空火器を順次破壊してくれていた。
「あれ。隊長は爆装使わないんですか?」
〈ああ。俺ぁテメェらの尻守んのが仕事だからな。兼用中距離と半能動誘導しか積んでねぇ〉
尾翼の墓石マークが俺の機を追い越す。そのまま迷いなく急降下していき、首を持ち上げ始めた対空機銃にミサイルを浴びせる。ついでとばかりに30㎜機関砲で弾丸の雨を降らせて、装甲車二台を蜂の巣にした。
「相変わらず、すご腕ですね……」
〈まぁ……実戦経験によるもんだな、こりゃ〉
褒めてみても、口調や声色は変わらず……いや、少し翳りがあったようにも思う。
〈おら、無駄話してねぇでテメェの仕事をやれ〉
上昇、ループ軌道で戻ってきた隊長は、そのまま背面飛行で横を飛び去り、南側へと向かった。
——口は悪いけど、頼りになる人がウチの一番機で良かったよ、ホント……
ふと海の方を見ると、低空に白雲が厚く広がっているのが見えた。ここでの戦闘など我関せずと言いたげに漂っている。呑気なもんだ。
俺は気を取り直して、安全になった空から次なる標的を探し——
[警告! ヴァルチャー3、レーダー照射を受けている!]
唐突なAWACSからの通信。無線から、リックの短く困惑する声が聞こえる。
[飛翔体接近! 方位、225!]
俺は機体を左旋回させ、示された方角を見上げて目を細めた。不細工な白星を背に飛ぶ黒鳶——その側面を目掛け、赤い噴流が尾を引いて迫っていた。
〈リック! 対処を!〉
四番機が彼の後ろから退避しつつ叫ぶ。
〈ええい、これでも食ってろッ!〉
台詞と共に、三番機後部から橙黄色の囮用炎弾が無数に散布される。
〈そいつは能動誘導ミサイルだ、バカ! フレアは効かねえ!〉
[ヴァルチャー3、回避を!]
〈機首上げだ、急げ!〉
聞き慣れない隊長の焦り声、飛び交う無線、仲間の上擦ったような呼吸音——スローモーションのように映る光景に反して、俺の心臓がバクバクと跳ね続けている。
弾頭に信管を備えた白い円筒が、彼の機体、その至近にまで——
「リック! 避けろぉ!!」
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【用語解説コーナー】
アクティブ・レーダー・ホーミング
:ミサイル本体から対象に電波を照射し、
その跳ね返りを受信する事で追尾する。
汎用的なミサイルは赤外線(熱)探知で
フレアを使うことで欺瞞できるが、
こちらはレーダー反射を利用している為、
撹乱する事が出来ない。
なお、セミ・アクティブは電波受信機を
備えるのみで、機体から標的に電波送信し、
着弾までレーダー照射し続ける必要がある。
その分、ミサイル本体に爆薬や燃料を
より多く積める利点がある。
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