00-07 初めての戦果
「フォーラ、ビジョンの最適化!」
『承知しました。対地モードに最適化します』
応答とほぼ同時、視界が途端に開けた。俺の顔の向きに合わせて、機体周囲に設置されたカメラ映像がバイザーに投影されている。まるで空中に座っているような感覚に陥る。
見下げると、機器を貫通して砂と岩だらけの地表がくっきりと視認できた。進路の斜め前方に輸送車が並び、その後ろに砲塔を備えた移動要塞を確認する。
「HUDを爆撃モードに移行!」
『承知しました。着弾予測表示と投下ガイドを開始します』
言い終わるより前に、下方へ伸びる薄緑の放物線と、地に沿った円形の爆発範囲が表された。そして大きく分かりやすく「AMMO:6」との表示。
「この時代に無誘導爆弾だもんなぁ……」
〈つべこべ言うな、海坊主ぅ!〉
俺のぼやきに、隊長がすぐさま返してきた。
〈AIFAのガイドがありゃあ、誘導弾みてぇなもんだろうが〉
「そうですけど、やっぱり遠距離から狙って撃てた方が——」
〈んなもんに掛ける予算は無ぇんだよ! いいからさっさと落とせ! 以上!〉
本音を叩きつけられた所で、渋々俺は数千m先の敵戦車をターゲットに選んだ。
「フォーラ、投下ガイド開始」
指示しつつ、ペダルで機体進路を微調整する。
『承知しました。投下まで……10カウント』
操縦桿の兵装ボタンに親指を添える。
——大丈夫……いつも通りにやれば良い。相手は無人機。訓練の時と同じだ……。
『3秒前、2、1——』
「爆弾投下!」
——カチッ
対象がグリーンのサークルと重なる瞬間、グッと指を押し込んだ。
下部の開かれたウエポン・ベイから、黒く太い筒が重力に従って落下する。AMMOの表示が「5」に変わる。
一秒と経たず、目標通りの位置で、爆炎と火柱が上がった。それを確認した俺は空を見上げ、大きく息を吐いた。初戦果——その実感が、少しずつ湧いてくる。
〈ちょっとヒヨコぉ! その標的、私が先に狙ってたのよ!〉
〈へへーん! 早い者勝ちなんだよッ!〉
戦地の逆側で、グレアとリックが言い争う無線を交わしている。それが、やっと耳に届いた。さっきまでの緊張で、俺は周囲の声や戦況に気を配る余裕すら無かったのだろう。
——小心者だな、俺……
『ミナト、次の標的に向かってください』
傷心に浸る間もなく、フォーラに尻を蹴り上げられた。
「いい相棒だよ、まったく……」
無線に乗らない声量でボソリと呟き、俺は操縦桿を握り直した。
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【オリジナル機器解説コーナー】
バイザー・ビジョン
:AIの情報処理能力を活かした最新鋭機器。
装着者のバイザー視点に合わせて
カメラ映像を適時投影する事により、
機体下部や後方の死角を取り払うシステム。
対地標的が格段に狙いやすくなり、
空中での格闘戦で敵機を見失う心配も減る。
ヘッドマウント・ディスプレイとして
現代においても開発が進んでいる。
HUDの代わりに顔を向けるだけで
敵機へのロックオンが可能という優れもの。
遠くない未来、機体を透過して視認できる
システムがいつか完成するかもしれない。
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