00-06 0753標準時
[こちら空中警戒管制機《AWACS》サンドストーム。第916航空遊撃隊の各機へ通達。今作戦では、当機が指揮・統制を行う]
〈ヴァルチャー1、了解〉
クランプ隊長に倣い、俺らも応答した。
作戦空域到着の十分前に管制機と合流するという事前確認……より、三分遅れていた。
〈砂嵐にでも遭ってたのかねェ、ったく〉
リックが無線を開いたまま愚痴を叩いた。
〈ヴァルチャー3、聞こえてんぞ。俺たちの無線は砂塵程度じゃ遅延しねぇからなぁ〉
諫めるのかと思いきや、隊長も乗ってきた。危うくメットの内で噴き出しそうになる。
〈ちょっとクランプ隊長! 言って良い事と悪い事がありますよ!〉
さすがはグレア、無自覚でトドメを刺してきた。堪え切れず、無線を切って存分に声を上げた。通信を聞いてるであろう管制官が無言を貫いてるのが、一層面白かった。
〈ヴァルチャー4、作戦中に本名を出すんじゃねぇ。呼ぶならせめてトゥームにしろ〉
〈あッ! 隊長だけTACネーム使うなんて、ズリぃぞォ!〉
〈喚くなヒヨコ。この作戦が終わったら、テメェらも好きに名乗らせてやる〉
〈やりィ!〉と燥いだリックに[ヴァルチャー隊、私語を慎め]とAWACSがようやく突っ込みを入れてきた。ひとしきり笑い終えた所で、俺はスイッチをオンに切り替える。
基地での訓練時と何も変わらない空気感に、少しホッとしていた。
海上と比較すると、下が荒野な影響もあるのか、幸い雲量は少なく見晴らしが良い。風も穏やかで、爆撃日和と言っていいだろう。
[第916航空遊撃隊の任務は、事前確認通りだ]
〈了解。ちゃんと記憶してっか、テメェら〉
「はい。地上軍の脅威になる無人兵器の優先排除、および航空優勢の確保」
航行中、脳内で何度もスクロールしていた文面をそのまま読み上げた。
〈上出来だ、海坊主。ヒヨコと尻尾、分かったな〉
〈了解〉〈了解……〉
尻尾というのは赤銅色のポニーテールを指しての事だろう。みんなクランプ編隊長から変な呼び名を付けられてるからこそ、早くTACネームを欲しがるわけだ。
〈……各機、傾聴〉
不意の張り詰めた声に、背筋を正した。
〈俺たちは禿鷹——〝腐肉喰らい〞だ。まぁ生身の人間を相手にしてねぇんだから、当然だわな〉
そもそも腐肉すら入ってない空っぽだけども……なんて思ったが、口を噤んだ。
演説の合間、進路下方に友軍の装甲車やタンク等が見えてきた。心拍数が上がるのを感じる。首筋を伝う汗がいつもより冷たい。一度深く呼吸する。
変わらぬ口調で、隊長は続ける。
〈まぁ、なんだ。殺しの罪悪感なんて背負わなくて済む、楽な仕事だ。そういうわけで——〉
一番機のコクピット内で、彼はサムズアップ——
[——0800標準時、作戦開始]
反転し、親指を下へ。
〈テメェら、喰い荒らして来い〉
「了解!」〈了解ッ!〉〈了解!〉
返答し、散開する。俺は正面の地上敵に向けて、機体を加速させた。
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【用語解説コーナー】
AWACS
:早期警戒管制機、または空中警戒管制機。
ジェット機の上部に大型レーダーを搭載し、
遠距離・広域の敵機を探知する。
情報の伝達、さらに指揮・統制を行う。
最新鋭の電子機器を満載している為、
一機当たりの価格は戦闘機の10倍以上。
自衛用のチャフ・フレアを装備している。
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