00-05 四機、海上を渡る
〈こちらヴァルチャー1。テメェら、隊列を乱すんじゃねぇぞ〉
「了解」〈了解〉〈了解〉
クランプ隊長の無線伝達に、2、3、4の順で返答する。
高度4,000m。太陽を背に、海上を亜音速で飛行する。一番機を先頭に、その右後方に俺の二番機。反対側を飛ぶのが三番機。そして、隊長とリックの延長線上に、最後方を行くグレア。
頭上を覆うポリカーボネート樹脂製の頑丈な天蓋。
眼前の縦長な六角形をした複合ガラスには、ライトグリーンで速度・高度・進路予測等が表示されたHUD。
視線を下げると、計器パネルやレーダー受信機、左右のコンソールパネルなどなど……。
そして股の間に生える操縦桿と、左壁面を占めるスロットル・レバー。靴の下には尾翼を操作するためのラダーペダル。
「いつも思うんだけど、こんな狭いとこに長時間いたら気が狂いそうだ……」
『ミナト、もうすぐ作戦時間です。集中してください』
航空機用AIのフォーラが注意喚起する。インカムとヘルメットを接続した今、彼女はこのXi-37と一体となり、自動操縦や理想的な操縦アドバイスが可能な状態になっている。
「戦闘もフォーラがやってくれれば楽なんだけどな……」
『国際法により、AIが生物を攻撃、あるいは照準を向ける事も、禁止されています。この話をするのは、これで三十——』
「わぁかってるって! いいじゃねぇか、お喋りに付き合わせるくらい!」
操縦桿から片手を離し、誰にでもなく手を振る仕草をした。
西の辺境にあった某国。それが六年前、突如として近隣諸国への侵攻を開始した。しかも、軍事攻撃にAIを利用して——
全世界で開発されているAIは、インターネットに接続されている限り毎秒アップデートされて、その都度で攻撃不能プログラムをインストールされる。それがある限り、AIが人類に牙を剥く事は無く、人間が戦争にAIを利用する事も出来ない——そう信じられていた。
だが、某国はオフラインで独自にAIを作り上げ、それを抱えて戦争をおっ始めたわけだ。戦車も、艦船も、戦闘機も、全部AI。何もかも無人機。
その無法を止めるべく平定連合国とやらが結成されたが、人間だけでは人工知能に太刀打ちするのは厳しかった。
法を侵さず、某国に対抗する——その為に考え出されたのが、人間とAIによる共闘兵器だった。練度や訓練方法も次第に向上し、ようやく奴らと拮抗できる所まで漕ぎ着けた。
そして俺たち第916航空遊撃隊もまた、某国に対する有力打撃軍として調練され、そのお披露目が、今回の作戦にあたる。
〈陸が見えてきたぞ。各機、戦闘準備〉
隊長の指示を受け、兵装管理ボタン——普段は訓練に入力されてるものを、初めて、武装に切り替えた。
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【用語解説コーナー】
HUD(Head-Up Display)
:複合ガラスに、各種情報を投影する装置。
速度、高度、進行予測、水平線、方位、
姿勢表示、気圧、掛かっているGなど、
さまざまなデータが表示される。
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