00-03 初任務、概要通達
「今回の任務だが、」
クランプ隊長は鉛色のゴワついた髪を掻きながら、作戦室のデスクに戻り話を続ける。
「陸軍への航空支援——対地ミッションだ」
ドカッと椅子に座り、再び机に肘を置いた。
「なァんだ、空戦じゃねェのかァ」
軽口を叩いたのは浅黄色短髪のリック。
「バカヤロウ、初陣で死ぬ気かテメェは……」
即座に隊長が窘める。口調に反して、その目付きは真剣だった。
「現在、敵国境付近の侵攻拠点に、軍事物資が次々に集積されてる——との情報を掴んだ。そこを陸軍と俺らで強襲する作戦だ」
「それ、制空権とかは大丈夫なんですか……?」
思わず訊いた俺の質問に、彼は「まぁ、待て」と言いたげに手で示した。
「直近の敵航空設備まで数百㎞は離れてる。たとえスクランブルで飛ばしても……まぁ、五分は大丈夫だろう」
「たった五分ですか?」
今度は赤黒ポニテのグレアが口を挟んだ。
「あのなぁ……。俺らが保有してる戦闘機の名前は何だ? リック、言ってみろ」
「ハッ、Xi-37——ミルバスでありまァす!」
「んじゃあ、ソイツの役割は? ミナト」
「えっと、空戦・爆撃・偵察任務にも対応可能な、マルチロール機です」
「そうだ。では最後に、Xi-37に積める爆装の最大数は?」
目線がグレアに向く。
「……下部ウエポン・ベイに六発、主翼下に二発の、最大八発です」
「上出来だ」
隊長はわざとらしく拍手した。
「そう、マックス八発だ。んなもん五分ありゃ全部投下し切っちまうだろ」
背もたれを軋ませつつ、軍靴で机上を叩き、脚を組んだ。
「今回、装填する爆装は六つ。主翼下には念のため中距離空対空ミサイルを二発装備していく。あとは……まぁ、明日のブリーフィングで説明すりゃあいいか。以上。おら、散れ散れ」
そう言って、クランプ隊長は手の甲で俺らを追い払うように振った。
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「もう! クランプさんってば、雑過ぎるわよ!」
談話ホールに着いてすぐに、グレアが顔を膨らませて不満をぶち撒けた。
「今に始まった事じゃないだろォ?」とリック。
「それはそうだけど……。だって私たちの初任務なのよ? もし何かあったら……」
言いつつ、彼女は不安げな表情で肩を抱いた。
「……あの人は、いい加減だし、たまに怖いけどさ……孤児院上がりの俺らの面倒を、なんだかんだ見てくれたんだ」
「そうだそうだァ! メチャクチャな訓練しやがってェ!」
「リックっ!」
戯ける彼に一言釘を刺す。
「まぁ、なんだ。信頼しようぜ、あの人のこと」
「……ふふっ」
「なんだよ」
「その『まぁ』って口調、隊長みたい」
クスクスと柔らかく笑うグレアに「うっせぇ」と吐き捨てた。
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【オリジナル機体解説コーナー】
Xi-37
:Xitus社製の試験軍用戦闘機。通称ミルバス。
多用途での実戦配備と、近接格闘能力の実現。
それらを目指し設計開発されたAI搭載機体。
コクピット横の前翼による揚力増大、
機体背部の開閉式エアブレーキ、
そして最大の特徴は、三本の垂直尾翼。
極めて複雑な操作性をAIで補助する設計。
速度帯を問わない高機動力を得たが、
パイロットへの肉体的負荷が課題点。
次世代機のXi-57に立場を奪われたため、
新規生産は終了している。
※モデルは『Su-37(Terminator)』
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