00-01 『始動』
《!! CAUTION !!》
本作はスピード感重視のため、
意図して各話1,000字程度となっております。
座席のシートベルトをしっかり締め、
振り落とされぬようお気を付け下さい。
——ビーッ、ビーッ、ビーッ!
「ああ、もうっ!」
等間隔で鳴り続けるアラートに悪態をついた。
操縦桿を強く引き寄せ、そのまま右に倒す。直後に急減速を入れ、螺旋軌道による回避行動。天蓋越しに視界の天地がグルリと切り替わる最中で、右翼上方を掠めるように噴射炎が通過した。
——ビーッ、ビーッ、ビーッ!
「——ッ! 手加減しろっての!」
思考放棄のボタン入力。欺瞞用のフレアを放出し、敵兵装の赤外線追尾を撹乱する。
機体姿勢が水平に戻った所でスロットル・レバーを押し出す。次の行動に備えた加速。首を左右に振り回し、周囲の状況確認、敵機を捜索する。
「アイツめ、どこ行った——」
『ここです』
返答と同時、頭上から火線が降り注いだ。弾丸が金属板を穿つ不快な音。視界が真っ赤に明滅する。
「だああぁぁっ! また負けたぁっ!」
俺は座席から立ち上がり、メットを脱ぎ捨てた。
『ミナト。危険ですから立つ前にシミュレーション・ゴーグルを外すべきです』
「細けぇんだって、フォーラは!」
『フォーラじゃありません。アイファです』
インカムを通じて、彼女は無感情に訂正した。
『正式名称は、AI For Aircraft——航空機用AIです。その頭文字を取って——』
「フォーラでいいじゃんか。別に名前つけちゃ駄目なルールは無ぇだろ!」
何度か聞かされた説明を断ち切って反論すると『確かにルールにはありませんが……』と少ししおらしくなった。
「なんだァ? 仮想戦闘で負けた腹いせに口喧嘩してんのか、ミナトは!」
小馬鹿にしたような笑いを含む声音で、俺の同期——リックが大股で歩み寄って来た。
俺と同じ孤児院上がりの十七歳。面長で浅黄色の短髪、垢抜けない顔はソバカスだらけの男だ。
「誰が負けただなんて——」
『はい。シュミレートは私の勝ちでした』
スピーカーに切り替えたフォーラの声が俺の言葉を遮る。心なしか誇らしげに聞こえた。
——コイツ、さっきの仕返しか!?
「ハッハッハッ! 口でも負けてんじゃねぇか!」
「うっせぇ! 何の用だよ!」
リックは、まぁ落ち着け、と言わんばかりに手首をぷらぷらと振る。そしてすぐ、真剣な、それでいて不敵な笑みを浮かべた。
「ボスからの集合命令だ」
「編隊長が? って事は——」
その表情と内容から、察した俺も口角が上がる。
「ついに——」
『初任務というわけですね』
美味しい所をフォーラに持っていかれて、思わず喚き散らした。高笑いするリックに鉄紺色の頭髪を鷲掴みされ、俺は作戦室へと連行されたのだった。
★=—— ★=—— ★=——
【用語解説コーナー】
バレルロール
:機首上げしながら機体を横揺れする事で、
螺旋軌道を描いて飛ぶ回避機動。
進行方向を変えず、かつ減速する事で、
後方から迫る敵を躱しつつ前に出させる。
だが敵機と距離があると追撃される場合も。
横倒しの樽側面を巻くような動きから。
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【作者より】
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