夢のお告げ
「飲み物を取りに行ってくる」
と言った恭一に、悠が「手伝います」と付いてきた。
「昨日もビハクが夢に出てきました。兄が京之助殿の奥方の生まれ変わりだというのですが……」
悠が信じられないという様子で話してきた。
「悠にも伝えてきたか。実は、俺にも夢のお告げがあってな」
2人とも顎に手を当て考え込んでしまった。そして悠が、
「何とも不思議な縁です。兄が女性でしたら良かったのですが」
と申し訳なさそうにポツリと言った。
その真面目で健気な悠の様子が何故か面白く感じ、恭一は声を上げて笑ってしまった。
「悠。その真面目な性格は変わってないな。お前が悩むことではないぞ」
と恭一は悠の頭を軽く撫でた。
「俺は、この時代に悠や麻人に会えたことは嬉しく思っている」
と言うと悠も
「私もです」とニッコリと可愛らしく笑った。
ペットボトルのお茶とコップを持って麻人とビハクのいる部屋に戻ると、恭一の母親が麻人と話していた。どうやら、麻人の母親が出勤前に先日の夕食のお礼にと和菓子を持って来たようだ。そのことを麻人に話していた。恭一の母親、加奈は45歳。麻人の母親、早希は43歳。お互い年も近く話が合いそうだと恭一の母親は喜んでいるようだった。
麻人の母親が持ってきた和菓子が早速テーブルに出されている。そこへ、祖父の陽一が大きめの籠を持ってやってきた。そこには、収穫した野菜が入っている。
「こんにちは! お爺さん」
麻人が陽一に挨拶をすると
「今日の野菜だ。麻人君も持って帰りなさい」
と春キャベツを渡していた。
「今日はロールキャベツにしようかな」
と恭一の母親が言った。恭一は、春キャベツを使ったロールキャベツは大好物で楽しみだと思った。麻人と悠と母親と祖父が話している間に恭一は部屋に着替えに行った。
夕食前に庭で剣道の素振りでもするかと竹刀を持って、みんなの所に行くと悠が話してきた。
「恭一様。剣道ですか?」
「ああ、素振りでもしようかと」
「私も、やりたいです」
恭一は悠に他の竹刀を貸してやり、2人並んで素振りの稽古をした。
「悠は、剣道をしていたのか?」
「いいえ」
「そうか。なかなか様になっているぞ」
前世は武士であったしな。当たり前かと恭一は少し笑みを浮かべながら稽古をした。
「恭一君と悠は気が合うよね」
と麻人が縁側に座りビハクを撫でながら、素振りをしている恭一と悠に言った。
「そうか? 悠は、なかなか筋がいいぞ」
と恭一が言うと、悠が汗をかきながら笑顔で竹刀を振っている。懐かしいなと恭一も嬉しくなった。
「恭一様は、部活は剣道部ですか?」
「そうだな。悠は?」
「私は陸上部に入るつもりです。友達に誘われましたし、走るのは得意なので」
「そうか」
「でも、剣道もやりたいので教えてもらえますか?」
「構わないぞ」
「お兄ちゃんも、一緒にどう?」
と悠が麻人に声をかけると
「いいよ。僕は無理」
と手を顔の下で振り笑っている。麻人は美術部に興味があると言っていたしな。運動は苦手なのだろうかと恭一は思ったが、わざわざ聞かなかった。