社務所の二人
恭一と麻人は、社務所で二人並んで座っていた。その建物は、参拝者達がお参りをする拝殿に対し、直角の位置に建っている。
恭一達とは少し間をあけ、彩音と奈穂と悠も並んで座っている。彼女達は、お札やお守りなどを渡す役割である。巫女装束の白衣に袴を合わせ、きりりとした様子である。
「今日の恭一君、とても大人っぽいね。袴姿が似合ってるよ」
麻人に言われ、恭一は少し照れくさかった。恭一と麻人も白衣に袴姿である。恭一は、麻人の袴姿を見て可愛らしいなと思っていたが、口には出さなかった。自分は大人っぽいと言われたのに、可愛らしいは褒め言葉にならないと感じたからだ。
「御朱印をお願いします」
若い女性が、御朱印帳を恭一に渡してきた。鶯色の表紙の帳面は、真ん中あたりを開かれている。恭一は小筆を手に取り、硯の墨を筆に浸し、静かに深呼吸した。
右上に奉拝、真ん中に神社名、左端に日付を書き、隣の麻人に渡した。麻人は、御朱印帳を受け取り、朱色のスタンプ台に判を載せ、帳面の真ん中に神社名の判を押した。最後に神社の説明が書かれた薄い紙を挟み完成である。麻人は丁寧な動作で、流れるような身のこなしだった。
「お待たせしました。良いお参りを」
麻人は御朱印代を受け取り、柔らかな声で御朱印帳を返していた。
「ありがとうございました」
麻人の優しい微笑みを見ながら、女性は嬉しそうにお礼を言い立ち去った。
「緊張した。大丈夫だったかな」
麻人は、心配そうな顔で恭一を見た。
「すごく落ち着いていたし、緊張してるように見えなかった」
恭一は、あまりにも慣れた様子に見えたので、麻人の言葉は意外だった。
「ドキドキしてたんだけど、体が勝手に動いていたって感じなんだ」
麻人の前世は、神社の娘であった。その時の記憶が、体にしみ込んでいるのかもしれない。
「綺麗な動作だったから、ビックリした」
「ほんとに? ありがとう。恭一君は、カッコ良かった」
お互い少し頬を赤らめ、目が合った時、すぐにくすっと笑っていた。
「恭一、今日は御朱印か。背筋が伸びて凛々しいな」
「のぶさん。ありがとうございます」
恭一は、青年団の団長、宮下信喜に声をかけられた。
「こんにちは」
麻人は、団長に挨拶をした。
「ご苦労様」
団長は、麻人をねぎらい、スマホ片手に忙しそうに去っていった。
「恭一君の知り合いなの?」
麻人に聞かれ、恭一は団長のことを説明した。
「恭一君のお兄さんって感じだよね」
「そうだな」
恭一は、社務所の中での会話をとても楽しく感じていた。ふと、麻人の姿が、前世の妻と重なって見え、はっとした瞬間があった。
前世の妻は、普段何をしていたのだろうか。自分は、彼女のことをあまり知らなかったかもしれない。
恭一は、硯と筆を見つめながら自責の念にかられていた。




