夏祭りの朝
今日は、夏祭りの日である。
温暖化の影響か、昨日の夕方は豪雨に見舞われた。近年、滝のように雨が降ることがあり、恐ろしいくらいだ。幸い、今日は朝から快晴で、地面もみるみるうちに乾いていった。夏祭りが予定通り開催されるのは良いことだが、暑さのあまり準備する人達の体調が心配である。
恭一は、早朝から神社の掃除にかかった。神社の関係者や青年団のメンバー達も、早くから出向いてくるはずである。
「おはよう。早いな、恭一」
「のぶさん、おはようございます。今日は、よろしくお願いします」
早速、青年団の団長に声をかけられた。
青年団は、地元の二十代から三十代までの集まりで、彼らは毎年屋台を出している。また、祭りの整備など見回りをしたりと頼もしい集団だ。
「今日も、暑くなりそうだな。宮司さんの所に行ってくるわ。後でな」
「はい」
青年団の団長は、恭一の父親である宮司の所へ行った。今日の打ち合わせに行ったのだろう。団長の宮下信喜は、商店街の八百屋の息子で、恭一や地元の人々とは顔なじみである。また、団長は恭一の高校のOBで剣道部だった。恭一が小さい頃、よく一緒に練習に付き合ってくれた。恭一にとって、親戚のお兄さん的な存在である。
掃除を終えた恭一は、自宅に戻ることにした。門をくぐると、玄関前にビハクがいた。
「どうした、ビハク。お腹がすいたのか」
恭一は、ビハクが少し落ち着かない様子に見えたので、しゃがんで頭を撫でていた。
「恭一君、おはよう」
恭一が振り向くと、麻人と悠が二人並んで立っていた。
「おはよう、早いな。今日は、よろしくな」
「うん」
麻人は普段通り、にこやかに返事した。その横にいる悠が、いつもと違い硬い表情だった。
「悠、どうしたんだ?」
「悠は、ちょっと緊張しているんだよね」
恭一が尋ねると、麻人が悠のかわりに答えた。
「姉さんも奈穂ちゃんも一緒だし、悠なら大丈夫だよ」
「はい。頑張ります」
恭一が励ますと、悠は元気よく答えた。
悠には、巫女として社務所でお守りやお札を渡してもらう。その業務も重要だが、夏祭り最後に行う儀式がある。姉の彩音や奈穂は慣れているが、悠は初めてである。予行練習はしているが、緊張するのは当然である。
恭一達が茶の間を覘くと、団長の宮下と父親が腰を下ろし話し込んでいた。邪魔をしてはいけないと思い、恭一達は食卓で待機することにした。そこへ、彩音がやってきた。
「悠ちゃん、今日はよろしくね。麻人君も、恭一のサポートお願いね」
彩音に声を掛けられ、麻人と悠は頭を縦に振った。
恭一は、今日は父親の代わりに御朱印を担当することになっている。父親の宮司の許可を得て、麻人には御朱印を手伝ってもらうことになった。恭一は、字を書くことは得意だが、慣れていないことなので少しプレッシャーを感じている。
「恭一君、よろしくね。楽しみだな」
穏やかな笑顔の麻人を見て、恭一は自然と心が落ち着いた。




