夏祭り
恭一は、剣道部の練習を終え、自宅の台所で冷えた麦茶を飲んでいた。今年の夏も暑く、うんざりする。今日は曇っているので、暑さは多少ましに感じる。台所から茶の間に移動し、窓を開けると笛の音が耳に入ってきた。
先日、景山が祖父に龍笛を教えてほしいと願ってから、祖父は快く引き受けたようだ。夏休みのせいか、景山は午後になると頻繁にやってくる。麦茶を飲みながら祖父の自宅の方を見ていると、玄関の引き戸があき景山が出てきた。景山は、恭一に気付き近寄ってきた。
「こんにちは、恭一さん」
「頑張ってるな。爺ちゃんは厳しくないか?」
「いえ、とても優しくて楽しいです」
「それは良かった」
笑顔の景山を見て、恭一は安心した。それと同時に、とても日焼けしている景山に驚いた。
「景山君。どこか行ったの? 日焼けしてるけど」
「あ、これはですね……畑で」
景山は、にこやかな顔で言った。
どうやら、景山は祖父の畑仕事を手伝っているようだった。龍笛を教えてもらうかわりに、畑を手伝ってほしいと祖父に言われたらしい。
「爺ちゃんらしいな。悪いな」
恭一は申し訳ないなと思い、景山に謝った。
「当然です。教えてもらっているし。この龍笛、お爺さんから貰いました」
「へぇ、そうなんだ。良かったな」
「はい」
恭一は、祖父が新しい龍笛を買ってきたのを思い出した。祖父が、かなり張り切っているということが推測できる。
もうすぐ麻人や悠が来る予定なので、景山も一緒に待たないかと誘ってみた。少しなら時間があるようで、一緒に待つことにした。引き留めてはみたものの、何を話せばいいか分からず、お互い座ったまま沈黙が続いた。
「あの、小野田さん達は何かの用事ですか?」
小さな声で、景山が話しかけてきた。
「今日は、夏祭りの相談で」
「夏祭りですか」
毎年、八月の半ばに神社で夏祭りを開催している。夏祭りと言っても、小規模な神社なので屋台が数店出たり、子供達中心の盆踊りがあったり、地元の人達が集まる行事である。
「こんにちは」
麻人と悠がやってきた。
「景山君、来てたの?」
「はい。お爺さんのレッスンがありました」
悠に、景山が答えている。
「景山君。すごく日焼けしてるね。どうしたの?」
麻人が、不思議そうな顔で尋ねている。
「お爺さんの畑を手伝っていて」
「そうなんだ。暑いのに大変だね」
「いえ、楽しいです」
にこやかな景山を見て、麻人も微笑んだ。
「それはそうと、相談って何?」
麻人が、恭一に向かって聞いてきた。
「二人に、夏祭りの手伝いをお願いしたいんだ」
夏祭りは夕方から始まるが、その日は屋台の準備などがあり、人の手が足りない。姉の彩音、従妹の奈穂は、おみくじやお守りなどの担当で巫女をする。
「悠も巫女をしてくれないか?」
「え? いいんですか。やります」
悠は、わくわくしている様子だ。
「麻人は、主に俺の手伝いをお願いしたい」
「うん。いいよ」
二人が即座に応じてくれ、恭一はほっとした。
「僕も何かお手伝いしたいです」
景山も手伝いを申し出てくれ、恭一は嬉しく思った。




