龍笛
恭一と麻人は、皆がくつろいでいる掘り炬燵に座った。案の定、ビハクは麻人の横に寄ってきた。
「ビハクは、麻人君のことが好きよね。家で飼ってるのにね」
「本当だな」
恭一と彩音は、呆れた顔でビハクを見ている。
「可愛い猫ですね。ビハクって名前なんですか?」
景山が名前に興味を示した。
「そうなんだ。名付けたのは、麻人なんだ」
恭一が答えると、
「真っ白で綺麗です」
景山がそう答えると、
「ありがとう。良かったね、ビハク」
麻人はビハクを撫でながら、ニッコリとしている。そこへ、祖父の陽一がやってきた。
「みんな来ていたのか。ちょうど良かった。みんなで食べるといい」
陽一は、カゴに入ったイチジクを差し出した。
「わぁ、これもお爺さんの畑で採れたの?」
悠が目を輝かせて聞いた。
「そうだぞ。美味しいぞ」
「いつも、ありがとうございます。良かったね、悠」
「はい。お爺さん、ありがとうございます」
嬉しそうな悠の顔を見ながら、麻人は微笑んでいる。
「お爺ちゃん。今日は、悠ちゃんのお友達が来ているのよ。景山君」
「こんにちは。景山といいます。お邪魔しています」
彩音に紹介され、景山は立ち上がり挨拶をした。
「景山君か。よろしくな」
「はい」
陽一は、緊張気味の景山に優しい声で語りかけた。
「そうそう。お爺ちゃんは龍笛の名人なのよ」
「りゅうてき……ですか」
彩音の言葉に景山が首を傾げている。
「和楽器の横笛よ」
「聞いてみたいです」
フルートを吹くせいか、景山は和楽器に興味を示した。
「お爺ちゃん、聞かせてあげてよ」
「最近は、あまり吹いてないからな。ちょっと待ってくれるかな」
彩音に促され、陽一はいそいそと自宅の方に行った。恭一も、祖父の笛を久しぶりに聞きたいと思った。
陽一を待つ間、悠と奈穂は早速イチジクを食べている。
「わぁ、美味しい」
悠は、イチジクを頬張りご機嫌な様子だ。
「ほんと、お爺ちゃんの育てる物は何でも美味しい」
奈穂も、幸せそうに食べている。
数分後、陽一は布の細長い袋を手に持ち戻ってきた。
「お待たせ」
袋から焦げ茶色の横笛を取り出した。
「カッコイイ笛ですね」
景山は興味津々に笛を眺めている。
「では、特別に演奏するぞ」
陽一は少しおどけた感じに言ったので、みんなも笑いながら拍手した。
陽一が龍笛を構え、笛の音が鳴ると辺りの空気が一転した。高音の美しい調べは、とても神々しく耳に心地よい。
恭一は、祖父の龍笛の音を聞くと気持ちが引き締まるし、心が落ち着く。景山のフルート演奏を聞いた時も、同じような心境だった。
陽一が演奏を終えると、部屋に静かで穏やかな空気が流れていた。
「すごいです」
麻人が声を発し拍手をすると、皆が我に返ったように拍手しだした。
「悠ちゃん、どうしたの? 泣いてるの?」
奈穂が悠に声をかけている。
「うん。なんか勝手に涙が出てきた」
泣いている悠に、麻人が近付き微笑んでいる。
「泣いてくれるとは嬉しいな」
陽一は、喜んでいるようだ。
「お爺さん。僕に龍笛を教えて下さい」
景山が突然立ち上が入り、陽一に向かって真顔で願い出ている。
「え? 龍笛をか」
急な申し出に、陽一はびっくりしている様子だった。




