演奏が終わって
「あ、どうも……」
目の前に景山が現れ、恭一は軽く会釈をした。
「見にきてくれて、ありがとうございます」
景山は、緊張しているのか少し声が上ずっていた。そんな景山を見て、麻人はくすっと笑った。
「とても良かったよ。悠も来てるよ」
麻人の言葉に、景山は笑みを浮かべた。
「恭一も麻人君も、どうしたの? あら、あなた景山君ね」
「あ、はい。こんにちは」
恭一達が会場に戻ってこないので、気になったのか彩音が様子を見にきた。
「とても素敵な演奏だったわ」
「ありがとうございます」
「私は恭一の姉なの。よろしくね」
「よろしくお願いします」
景山は背筋を伸ばした後、彩音にお辞儀をしていた。恭一は、彼の礼儀正しい振る舞いに好感が持てた。
「景山君、誰かご家族の方が来ているの?」
「いえ。一人です」
「そうなの。だったら、私達の席で一緒に演奏を観ましょうよ」
「はい」
「恭一と麻人君も、早く来てよね」
彩音の後ろに、景山がしおらしく付いて行った。扉の中に入る時、景山は振り向いて恭一達の方をちらりと見た。少し不安げな表情だった。
「彩音さんに付いていく彼、なんか子犬みたいだったね」
「ほんとだな。案外、悪い子ではなさそうだよな」
「そうだね。僕達も、みんなの所に戻ろうか」
「ああ、そうしよう」
恭一と麻人は、長椅子から立ち上がり客席に戻ることにした。恭一は、始めは外に出ようかと考えていた。子犬みたいに不安げな景山が気になったのもあり、会場へ入っていった。
会場では、高校生くらいの女の子のヴァイオリン演奏の最中だった。悠の隣には景山が座っている。恭一と麻人は、景山の横が空いていたので隣に並んで座った。その時、景山は軽く頭を下げた。
演目は進んでいった。恭一は、途中寝そうになったが何とか耐え抜いた。どうも、クラシック音楽は苦手だし眠くなってしまう。二部も最後となり、大学生くらいの男性のピアノ演奏だった。知らない曲だけれど、かなり上手いということは恭一にも理解できた。
景山が、集合写真を撮るということで席を離れようとした。その時、彩音がロビーで待っているからと景山に声をかけたようだ。
会場を出て、恭一はロビーの椅子にぐったりと座った。
「恭一ったら、何度か、こくりこくりしてたでしょ」
「そうなの? 恭君、音楽が苦手だもんね」
彩音と奈穂が、くすくす笑っている。
「寝そうになったけど、今日は起きていた……と思う」
「実は、私も寝そうになっていたんだけど、景山君が横にいたので眠れなかった」
悠が、彩音と奈穂に向かって言うと、
「恭一君も悠も、なんか似てるよね」
と麻人は呆れていたが、すぐに微笑んでいた。
しばらくロビーにいると、景山が走って近づいてきた。
「すいません。お待たせしました」
「ううん、大丈夫よ。景山君、今から家に来ない?」
「え? 今からですか」
彩音が景山に声をかけ、今からみんなで恭一の家に行くことになった。
「お母さんに電話しておこっと」
彩音は楽し気に、お客さんを連れて行くことを母親に電話していた。不安そうにしていた景山だったが、彩音の気さくな対応にいつのまにか明るい表情になっていた。




