懐かしい音
恭一達は、会場に入り後方に座った。とはいえ、三百人程度しか入れない所なので、舞台は良く見える。客席は、ところどころ空いている。演奏する人達の家族が来ているのだろう。景山は家族でなく、友人とも言えないし、不思議なものだと恭一は思っていた。
「例の子は、何番目なの?」
彩音が悠に尋ねると、プログラムを見ながら、
「えっと、一部の七番目のようです」
と悠が答えた。
景山の演奏が終わったら、退出してもいいよなと恭一は考えていた。
発表会が始まった。最初は、幼稚園くらいの女の子のピアノ演奏だった。次は、小学生くらいの女の子のピアノ演奏……プログラムは進んでいった。いよいよ景山の番になった。
「次は、景山一生君のフルート演奏です」
景山が舞台袖から現れ、その後ろから大人の女性が続きピアノの前に腰掛けた。伴奏をする人のようだ。フルートを持った景山が、客席にお辞儀をすると拍手が送られた。
景山が、フルートを構えピアノの方を向くと、ピアノ伴奏が始まった。聞いたことがあるような曲だった。映画か何かのテーマ曲だったように思う。
景山が肩で息をした瞬間、金色の楽器から、そよ風が吹いたような音が鳴り響いた。
恭一は、どこか懐かしいような温かい心地になると感じた。その時、ふと祖父が奏でる横笛を思い出した。
祖父は、雅楽をたしなみ横笛を吹いていた。龍笛と言う名の楽器だったはずだ。最近は吹いていないが、神社でよく披露していた。恭一は、祖父の横笛が好きだった。その音はとても美しく、神聖で心が穏やかになるからだ。
景山は控めな姿であるのに、奏でる音には力強さを感じる。演奏自体は、まだまだ優れていないかもしれない。けれど、彼の演奏を聞くと、不思議と力が湧いてくる。
景山の演奏が終わると、悠や彩音や奈穂は思いっきり拍手をしていた。
「とても素敵な演奏だったわ」
「景山君のフルート、本当に綺麗な音を出すの」
彩音と悠が、称賛している。
「なんか惹きつけられるよね」
奈穂も彼の演奏を褒めている。
「ちょっと……」
恭一は、そう言うと席を立ち、会場の外に向かった。会場後方の扉を開け出ようとすると、後ろに麻人がいた。
「お前も出るの?」
「うん」
麻人は微笑みながら答えた。
二人はロビーの長椅子に静かに座った。
「なかなかいい演奏だったと思う。けど、どうも音楽は苦手だ」
「苦手なんだ」
麻人は、くすっと笑った。
「そんなに上手いとは思わなかったけど、心に残る演奏だったな」
麻人は、少し上の方を見ながら言った。
「そうだな。懐かしい感じがする」
恭一は足元を見ながら、しみじみと言った。
「あ! こ、こんにちは」
先程、フルート演奏を終えた景山が、恭一と麻人の前に現れた。




