姉のバイト
音楽発表会があるホールは、電車で10分程の所にある。以前、恭一と麻人と悠とで、母の日のプレゼントを買ったショッピングモールがある駅である。そのホールは、奈穂がクラシックバレエの発表会をしたことがあるので、恭一は何度か行ったことがある。
発表会は午後1時開演である。11時半にホールの最寄駅で奈穂と待ち合わせをし、みんなで昼食を食べる手筈だ。
ちょうど改札を出た辺りで、奈穂が待っていた。
「奈穂ちゃーん」
悠が手を振り、小走りで奈穂の所に行った。
「悠ちゃん、この靴どうしたの? 可愛い」
「お母さんに買ってもらった。奈穂ちゃんも、可愛いサンダル」
「奈穂ちゃん、元気だった?」
「彩音ちゃん。こないだ会ったばかりよ」
「そうだった」
「彩音ちゃんのバッグ、可愛い」
「ありがとう」
恭一は、女子が集まると服や持ち物など、何かしら『可愛い』と褒め合うなと眺めていた。すると、
「奈穂ちゃん、お待たせ。可愛い服だね」
「ありがとう。麻人さんも可愛いシャツ」
恭一は、褒め合うのは女子だけではなかったと、密かに驚いていた。それに、奈穂がとても嬉しそうにしているのが印象深かった。
「恭一君、何ぼーっとしているの? 行くよ」
麻人に声をかけられ、みんながくすくす笑っている。
とりあえず、軽く昼食を取ろうということになり、駅付近のハンバーガーショップに入った。
「バイト代が入ったから、支払いは私に任せて」
「いいの? やったね、悠ちゃん」
「はい」
奈穂と悠は、テンションが上がっていた。
「悠ちゃん、たくさん食べてよ」
「ありがとうございます」
悠は、真剣にメニューを見て物色している。その様子を見ながら、彩音は顔がほころんでいた。
皆が席に着き食事をしている時、恭一は彩音に問いかけた。
「姉さん、バイトしてたんだ」
「あら、知らなかった?」
「全く」
「昇子おばさんの手伝いをしているんだけどね」
「おばさんの?」
彩音は、普段は下宿しているので、大学近くで何かしているのだろうかと思ったが違った。
「ママ、すごく助かるっていつも喜んでるわ」
「私こそ、勉強になるし楽しいわよ」
「どんなバイトしているんですか?」
麻人が、すぐさま問いかけた。
「昇子おばさん、占い師をしていてね。わりと人気で、メールでの受付対応を任されているの」
「そう言えば、占いをしてるって言ってたな」
恭一は、叔母の昇子のことはあまり知らなかった。
「マダム昇子と言って、雑誌の占いコーナーもしているのよ」
「知ってます。すごい」
彩音が説明していると、悠が驚きの表情で反応した。
「僕も知ってるよ。ちょっと毒舌だったりするんだけど、なんか優しいよね」
麻人も知っているようだった。
恭一は、自分だけ知らないのが衝撃だった。派手でお喋りだもんなと妙に納得もした。それにしても、『マダム昇子』って何だと思いながら、ハンバーガーにかじりついた。




