音楽発表会
「えっと、景山君……私に何か用?」
「あの、これ」
悠と同級生の少年、景山はさっき地面に落とした黄緑色の用紙を悠に渡した。
「これは?」
二つ折りの用紙を持ち、悠は景山に尋ねた。
「僕が習っている音楽教室で、発表会があるんです。見に来てくれませんか」
景山は、消え入りそうな声で下を向いている。その横で、恭一と麻人は不審な目を向けている。
「あの横笛を吹くの?」
「フルートです」
「ああ、それね。フルート」
恭一は、フルートとはどんな楽器だっただろうかと考えていた。中学の音楽の教科書を思い浮かべ、金色の横笛みたいな物だったかなと想像していた。どんな音なのか分からない。
「分かったわ。見に行くね」
悠が無邪気な笑顔で答えると、
「え? 行くの?」
麻人が、怪訝な声で悠に言った。
恭一は、景山が悠をつけていたのか確かめてみた。
「最近、悠の跡をつけていたのは君だったのか?」
「あ、はい。ごめんなさい。発表会のプログラムを渡したくて」
「そうか。てっきりストーカーかと思ったから、悠の兄貴も心配していたんだ」
「そうだよ。こんなことされたら、怖いよ」
「ごめんなさい」
景山は、下を向いたままで、今にも泣きそうである。
「お兄ちゃんも恭一様も、やめてよ」
悠が、その場を鎮めようとした。
「ごめんね。景山君。このプログラム、貰っておくね」
「はい。失礼します」
景山は、ぎこちない笑顔を浮かべ、そそくさとその場を立ち去っていった。
「彼は、悠に気があるのかな?」
恭一が、ぼぞっと言うと、
「えー? こんな食い意地張った女の子だよ」
「いや、悠の食いっぷりは、なかなか頼もしいじゃないか」
恭一と麻人の会話に、悠はむすっとした表情になった。
「二人とも、ひどい。私、食べてばっかりみたいに言って」
「今もコンビニで何か買ってたじゃないか」
「だって……お腹すいたし」
「まぁ、まぁ。悠が嬉しそうに食べている姿は癒されるって、姉さんも言ってたぞ」
恭一は、悠の機嫌を取ろうとした。
「悠、その発表会に行くの?」
麻人が、不満げな顔で悠に聞いている。
「うん。行こうと思う。音が、すごく綺麗だった」
「ふうん」
「お兄ちゃんと恭一様も、一緒に行こうよ」
「俺もか?」
恭一は、どちらかと言うと音楽は苦手である。従妹の奈穂は、ピアノを習っていたし音楽が好きそうなので、誘ってみるかと考えていた。




