長月家の人々
恭一の家で宴会が始まった。隣に住む祖父母も呼び、両親と彩音と恭一。そこに麻人と悠がちょこんと掘りごたつテーブルの端に座っている。
祖父、陽一は賑やかな場所が好きで麻人や悠がいることを喜んでいるようだ。陽一は76歳で、まだまだ元気であるが今は神社の仕事を引退し、趣味で畑仕事をしている。早朝から軽トラに乗り、畑仕事をして午後3時ごろには収穫した野菜を持って帰るという一日を過ごしている。畑仕事は重労働で足腰を鍛えるのにいいようだ。血圧が高いくらい以外は特に病気もなく、家族で一番声が大きい。
今日、陽一の収穫した野菜はインゲン豆のようだ。新鮮なインゲン豆は胡麻和えとして出されている。テーブルには、タケノコご飯やタケノコとワカメを煮た若竹煮。贔屓の魚屋で仕入れた刺身の盛り合わせ。野菜の天ぷら。野菜たっぷりの味噌汁など……野菜多めのメニューが並んでいる。
恭一の父親、栄一の血糖値が高めになってきたので、長月家のメニューはヘルシー志向なのだ。栄一は48歳である。恭一は『酒の飲みすぎだろ』と内心思っている。
「どれも美味しいね、悠」
麻人が妹の悠にニッコリと話している。
「うん。タケノコご飯は初めて食べました。美味しい」
悠が、にこやかな顔で食べている。
今日はビハクにも少量のマグロが与えられ、食いつきがかなり良い。
恭一は、前世の悠は魚が好きだったことを思い出し、ハマチやマグロやサーモンなどのお造りを小皿に取り、目の前に置いた。
「かたじけない。京之助殿」
と言ってしまった悠に、お酒で気分良くなっている祖父や父親が爆笑している。
「もう、悠。まだ時代劇が続いてるの?」
麻人が困ったような顔で言い、悠は顔を赤くしてしまった。
「いいのだぞ。雄吉。時代劇は俺も好きだぞ。楽しいな」
と恭一は悠に苦笑いで言うと、悠は晴れやかな笑顔で「はい!」と答えた。
酔っぱらった祖父と父親が、恭一達のことを「キョウノスケ」「ユウキチ」と何回も呼び、恭一は少々うんざりした。酔いがさめたら2人とも忘れるだろうと、その場をやり過ごした。
麻人達が住んでいるアパートは、祖父・陽一が大家をしている建物だということが分かった。駅に近いアパートである。
「困ったことがあれば、いつでも言いなさい」
と酒に酔い上機嫌な陽一が麻人達に話していた。
そして、今にも寝そうになっている陽一を、祖母が毎度のごとく隣の自宅へ連れて帰った。
「今日は、ありがとね」
と彩音は麻人と悠に言い、悠の頭を撫でている。彩音は夏休みにまた戻ってくるからと告げ、別れを惜しんでいた。
麻人と悠が帰る事になり、恭一は人通りがある所まで送っていくことにした。
恭一は、自転車を押しながら麻人達と歩いた。夜道はとても静かだ。
「今日は楽しかったよ。ありがとう。悠も楽しかったよね」
「うん。楽しかった。料理も美味しかった」
恭一は、この素直な兄妹に出会えたことが嬉しく、心が温かくなった。
「また、いつでも来てくれ。家族も喜ぶから」
と言い麻人達と別れ、自転車に乗り自宅に戻った。