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前世の願い

「恭一君、びっくりしすぎだよ」

「ほんとだな」 

 背後から急に声をかけられ、恭一は驚いてしまった。こそこそと希水に食べ物をあげていたので、何となく悪い事をしているような気になっていた。麻人も希水のことを知っているというのに。


「希水、美味しい? 後で、みんなの所においでよ」

「うん。でも、僕はここでいい」

 彩音や悠は希水を知っているが、他の人達は知らないので行きづらいようだった。


「そっか。僕も何か持ってきてあげるね」

「うん」

 羽を大きく広げ、希水は喜んでいる様子だ。


「今日の恭一君、すごく凛々しくてお侍さんみたいだった」

「そうかな?」

「前世の姿を思い出してしまったんだ」

 にこやかに話す麻人を見て、恭一も自然と笑顔になった。


「俺も、試合で1本とった後、前世の麻人や悠の顔が頭に浮かんだんだ」

「そうなんだね」

 恭一も麻人も、暫く遠くを見ていた。


「今日は、星が良く見えるね」

 夜空を見上げる麻人を横目に、恭一も空を見上げた。

「本当だ。空が澄んでいる」


「星は、ずっと昔から変わっていないのかな? 僕達は変わってしまったけど」

 恭一は、すぐに返事ができなかった。確かに、自分達の姿は変わってしまった。けれど、恭一にとって麻人は麻人以外の何者でもないと感じている。


「俺は、麻人に出会えて良かったと思ってる」

「僕もだよ。願いが叶って男に生まれ変われたしね」

「え?」

 恭一は、意味が分からず固まっていた。


「どういう意味?」

「うん。それはね……僕さ、ずっと前世の悠が羨ましかったんだ」

「雄吉が?」

「ずっと一緒に行動してたよね。だから、来世は男に生まれて、一緒に色んな事をしたかったんだ」

 恭一は、唖然として上手く言葉が出なかった。そんな時、ビハクが二人の側にやってきた。


「ビハクが、僕の願いを神様に伝えてくれたんだよね。ありがとう」

 麻人はビハクを抱きかかえ、顎を撫でている。


「俺も、来世でも出会いたいって神社に願ったんだけどな」

「そうなんだね」

「俺は、ダメな夫だったのかな?」

「ううん。家族を大切にして、守ってくれていたよ」


 恭一は、前世を思い起こした。当時、大きな戦いはなかった。けれど、何かあった時には大切な者たちを守りたい。その為に、武士として武術に学問に励んでいた。


「寂しい思いをさせていたのだろうか?」

「寂しいというか、嫉妬かな? 恥ずかしいけど」

 照れ笑いをしながら話す麻人を、恭一はぽかんと見ていた。


「恭一君、驚きすぎ」

 けらけら笑う麻人につられ、恭一も笑ってしまった。


「今世は、恭一君と肩を並べて、君を守れるといいな」

 にこやかな表情で麻人は言った。

 

 恭一は、麻人が現れてから、少しずつ自分の世界が変わってきたと感じていた。麻人の和やかな空気が、色んな人達を寄せ付け、自然と楽しい気分で過ごしていた。そんな思いを、上手く言葉にできないし気恥ずかしい。


「これからも、よろしく頼む」

 今の恭一には、これが精一杯の言葉だった。

「こちらこそ」

 麻人はクスクス笑いながら手を出し、お互い握手をした。


「お兄ちゃん、恭一様。もう、デザート食べてますよ」

 悠が、二人を呼びに来た。


「今から行くよ」

 恭一と麻人は、悠の側に行き、悠の頭を二人で軽く撫でていた。

「もう、何? 二人とも」

 そんな様子を、ビハクと希水はじゃれ合いながら眺めていた。

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