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誰のための剣

 恭一は、入場のため先輩達と整列して待機していた。


「五葉台高校、西蘭高校、選手入場」

 場内からアナウンスが流れた。


 選手が入場し、試合場の外に整列した。両校とも、堂々たる姿である。そして、試合場に入り中央で礼をした。


 今から始まる団体戦は、五人制の試合である。先鋒(せんぽう)次鋒(じほう)中堅(ちゅうけん)副将(ふくしょう)大将(たいしょう)の順で進められる。


「これより、団体戦、決勝戦を行います。先鋒、両者前へ」

 

 進行係のアナウンスで、恭一は前に出た。その時、観客席が少しざわめいた。本来、決勝戦では三年生が中心となって最強のチームで出ることが多い。そこに一年生が出ているのだから、会場では注目の的だ。もちろん、対戦相手は三年生である。

 

 この一戦目、勝つか負けるかで、チームの士気がかなり影響される。恭一は、重要なポジションにプレッシャーを感じながらも、強い闘志に武者震いしていた。


「始め!」

 審判の声が会場に響き、室内に緊張感が走った。


 恭一も相手も、一歩も動かない。竹刀の先が小刻みに揺れ、お互いの呼吸を測っている。そして、静かに踏み出しながら、お互いの動きを探り合っている。


 恭一は、『焦るな。動くと斬られる。相手の呼吸を感じるんだ』と自分に言い聞かせていた。

 限られた時間。残り時間が少なくなってきた。

 

 その時だった。お互いが一歩前へ踏み込んだ。気迫のぶつかり合いが始まろうとした時、わずかに相手の視線が揺らいだ。


「今だ!」

 恭一の迷いのない一撃が、相手の面に入った。


「面! 一本!」

 審判の声と共に、旗が上がった。恭一の勝利である。静かだった観客席から、どよめきが湧いた。

 

 しかし、恭一は竹刀の構えを崩さず静止していた。恭一の目の前に、一瞬ではあるが、前世のアサと雄吉の笑う姿が見えたからだ。

『そうだ。以前、俺は大事な人達を守るために剣を振っていた』

 恭一の心に過去の思いがよぎった。


 そして、恭一は背筋を伸ばし、相手への敬意を込め静かに一礼した。


 観客席から、大きな拍手が沸き起こっている。



「長月、すごいよな。一年でこれかよ」

 森下蓮が思わず声に出していた。

「ほんとにスゴイ」

 という土屋琴子に、

「さすがだわ。長月君」

 と高井鈴華も感動を隠せない様子で拍手を送っている。



「恭一様……」

 悠は感激で、涙が出そうになっているのをこらえている。

「恭君は、やっぱりカッコイイ」

 と奈穂がつぶやいた。


「お兄ちゃん、すごかったね」

 悠が、麻人の方を向いて言った。麻人は全く動かず、ただただ恭一の方を見つめていた。


「お兄ちゃん……」

「あ、ゴメン。恭一君が……一瞬だけど(さむらい)に見えてさ……」

 麻人もまた、恭一の戦う姿を目の当たりにし、前世の姿と重ねていた。

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